そして「うちの管理職だと思います。すいません」とお詫びの言葉を口にし、犯人と思しき人物の名前を挙げた。それを聞いた私は、大人の対応をしなくてはと自分に言い聞かせながら「犯人を捜したいわけではありません。そして、謝ってほしいわけでもない。皆が本当にどう思っているか聞きたいだけなのです」と言った。
そして「今日の夕方、管理職を緊急招集してください」と指示した。管理職を全員集めて1人ひとりを見極めてやる。組織のために犯人を排除しなくてはならないと、このときの私は強く思っていた。
怪文書に皆が賛成なら
「私は経営者を辞任する」
緊急会議は1階裏側にある薄暗い応接室で開かれた。支配人、マネージャー、各部門リーダーと、鹿沼72カントリークラブの所属長10人が全員集まった。
初めての自分への誹謗中傷。私にとって、どうにも消化できない事件だった。退路を断ってでも本気で社員と対峙しなくてはならないという覚悟を持って、会議の席に臨んだ。
「なぜ急に集められたのか」と怪訝そうにしている参加者たちを前に、私は文書を読み上げた。
読みながら1人ひとりの反応をうかがったが、誰が書いたのかは分からなかった。そこで1人ひとりに意見を聞くことにした。
「ここには『これは私ひとりの意見ではない』と書いてある。もし、ここにいる皆さんがこの文書を書いた人と同じ意見だというなら、私は鹿沼72の経営者を辞任します。新しい経営者の下、皆さんで頑張ってください。もしそうでないというなら、意見をしっかり聞かせてください」
辞任という言葉を使いながらも内心、ここで負けてなるものかと強い口調で言い切った。
口火を切ったのは経理担当だった。「この文書にある御殿場の資金支援には納得がいかないし、この文書を書いた人の気持ちは分かる」と発言した。
2人目に発言した役職者は「この文書に書かれていることに共感します」と答えた。「皆は現場で苦労している。そのことを社長も分かったほうがいい」と、口調は穏やかながら目は怒っているように見えた。やはり皆もそうなのか、と気を落とした。この流れで行けば、全員が賛同することになってしまわないかと不安に襲われた。
3人目は、研修生から社員になったキャディーマスターの杉山さんだった。実は、経営者人生の中で数人の社員に本気で怒りまくったことがある。そのうちの1人が杉山さんだった。