2人の声で流れが変わる
「社長とともに頑張る」
ある事件が起こり、鹿沼72カントリークラブの一番奥にある小部屋に呼び出し、厳しく叱責した。これからの将来を期待していた杉山さんに、自分の気持ちを分かってほしかった。「自分との約束が守れないなら会社をやめちまえ!」。今のご時世なら完全にパワハラだ。
この一件の後、杉山さんは期待に応えてくれた。キャディーたちの信頼を勝ち取り、キャディーマスターとして忠実に努力し、活躍していた。その杉山さんが声を上げた。
「私はそうは思いません。今は経営が厳しいとき。社長とともに頑張りたい」
続いて調理長も声を上げた。「怪文書のようなやり方には納得できない。腹が立つ。自分はここまで頑張ってやってきた。だから会社を守りたい」。
2人の勢いに押されたのか、場の流れが一気に変わった。残りの所属長たちも「自分は同意しない」と声を上げ始めた。
皆の声を聞いているうちに、犯人を見つけ出そうとしていた自分のことが、急に恥ずかしくなった。「1人でも私とともに進んでくれる人がいるのであれば、経営は続ける。この話はこれで終わりにしよう」。そう言って打ち切った。
数日後、ある社員が突然、私の部屋にやってきた。そして涙ながらに訴えてきた。「私が書いたという噂があるようですが、私は決して書いていません。家族もいます。仕事を続けさせてください」。彼の言葉に対して私は「信じています。引き続き頑張ってください」と伝え、堅い握手をした。踏み絵のような会議で犯人捜しをしたことに、経営者としての自信のなさや未熟さを感じた。紙切れ一枚の怪文書に振り回された自分が情けなかった。
持ち歩いていた怪文書を
シュレッダーにかけた
怪文書が出た原因は、マルチタスク化で1人ひとりの業務負担が増えた上に、震災による業績悪化で賞与を減額したことにあると私は考えた。外部要因に伴う体制の変化や業績不振は仕方のないことのように思える。しかし社員からしてみたら当然ではない。