顔認証+読唇術がもたらす
メリットとリスク

 この番組に用いられたのは、東芝が開発した「カオメタ」という顔認識AIです。特定したい人物の顔をあらかじめ登録しておくと、映像データの中からその人物に関する情報を自動でピックアップするものです。これはたしかに様々な用途が考えられる、便利なツールでしょう。

 たとえば街中の防犯カメラ映像から、行方不明の人物を探し当てたり、指名手配中の犯人を割り出したり、目視では困難な作業を自動化することができます。あるいはオフィスなどでは、ただ人の出入りを記録しておくだけで個人を特定し、勤怠管理の手間を大幅に削減することができそうです。

 問題は、そこに読唇術のスキルが加わった場合です。もしこのスキルが今後、画像認識技術に組み込まれるようになったら、何が起こるでしょうか?

 聴覚障がいの人たちの中には、相手の唇の動きからスムースに言葉を理解できれば、コミュニケーションがより円滑になるという効果があったり、民事・刑事の裁判の証拠として活用されたり、今回のように、歴史的な新たな事実の解明に役立つこともあるでしょう。

 一方で、ちょっとした雑談や軽口から思わぬ個人情報が漏洩したり、あるいは人間関係の混乱を引き起こしたり、従来にはなかったリスクが発生することも考えられます。

 仮に、親しい友人と駅で別れる際に、「どこまで帰るの?」「○○駅まで行くよ」といった会話がホームの防犯カメラに記録されていたとします。顔だけでなく、その会話までが自動で分析されるとしたら、意に反して自分の居住地が漏れることになりかねません。

 あるいは、オフィスの防犯カメラ映像に、休憩中に同僚とやり取りする他愛もない会話が拾われていたとしたら、皆さんはどう感じるでしょうか。上司や先輩の悪口、会社への不満などを日常的に口にしている人は、きっと青ざめるでしょう。悪意をもった人物から、これらの事実がSNSで拡散されないとも限りません。

 同様に、日頃から部下に対して厳しくあたっている管理職者は、あっという間にハラスメントが顕在化し、いまの地位が脅かされる可能性もあります(もっともこれは、記録されていなければいいということではありませんが)。