首相が農政改革派だというのは有名だが、実はそこでターゲットに選んだのが「減反政策廃止」だということはあまり知られていない。
2008年12月28日、麻生太郎首相(当時)から農水大臣に任命された石破氏はマスコミ記者に対して、「農業の持続可能性が失われている原因の一つは生産調整」として、減反の廃止を検討すると言い出したのである。
令和日本の感覚ではしごくまっとうな検討だが、当時は自民党農水族がすさまじい勢いで反発した。
実は2007年度、減反の価格維持効果が薄まってきたということで国の関与を弱めて、農家側が実際の生産量を決めるように政策転換した。しかし、これによって過剰生産に陥り米価が下落。これに怒ったJAの反発を招き、同年の参院選で自民党はボロ負けしてしまうのだ。
その結果、どうなるかというと「反動」で事態が悪化した。2008年産米からは「いや、やっぱ減反っすよね」と言わんばかりに自民主導で国や自治体が減反に関与するようになったのだ。
そんな流れで新任の石破大臣が「廃止」を言い出したわけだ。自民党農水族からすれば、「おいおい、あいつなんもわかってないからちょっとシメてやるか」と潰しにかかるのは当然だろう。
そのあたりの内幕は、石破大臣を支えた元農水官僚の高木勇樹氏が「読売新聞」の「時代の証言者」(2014年2月18日・19日)という連載企画の中で赤裸々に明かしている。
それによれば、石破氏から「5年後、10年後を見据えた政策を打ち出す。例えば、減反政策だ」と切り出された高木氏は、かねてから親しかった与謝野薫経済財政担当相(2009年当時)の協力を得て、経済財政諮問会議が公表する「骨太の方針」の中に、「農政抜本改革の断行」というタイトルで、以下のような文章を入れるように水面下で画策をする。
「今の米政策は経営発展の意欲を削いでいる」
「生産調整(減反)実施を要件とする補助金体系を来年度から抜本的に改める」
経済財政諮問会議の民間議員らに「提言」してもらったことを大義名分に「抵抗勢力」をつぶしていくというのは、小泉政権の郵政改革でも用いられた定番の手法なのだ。