最後の5分が「肝」になる

――頻度や話す内容など、運用のルールはありますか?

中田:厳格な決まりはありませんが、私たちが推奨したのは月1回20分です。「話すこと特にないけど」などと言いながら、話し出すと、お互いにいろいろなことが出てくるものです。

――20分ではどんな話をするのですか?

中田:どんなことを話すのかという決まりはないのですが、実は最後の5分ぐらいが「肝」になる場面が多いです。「ここでその話が出てきたか」といったことが起きるんです。

 でも、その前の15分間が無駄だったかというとそうではありません。温めるというか、ほぐすというか、そういう時間があったうえでの最後の5分間なんだと思います。本当に大事なことが最後に聞けた、ということはよくあります。

――「大事なこと」には、たとえばどんなことがありましたか?

中田個人的な事情に関することも多いです。でも、会社以外も含めて、その人を取り巻くものすべてでキャリアが築き上げられていくと思っています。なので、たとえ仕事と直接関係がないことでも、気になってることや悩んでることを話しておく大事な「場」になっていると感じます。

――中田さんとしては、1on1でどういう対話がなされるといいな、と思われますか?

中田:上司が自分のためにとってくれる大事な時間なので、自分がやりたいことはこれで、それにはこれが必要で、目の前の仕事の一つひとつはそのためにあるっていうことが確認できる時間だといいのかなと思います。

 3年後、5年後の自分自身が、今はなかなか見えにくくなってきていると思います。特に私たちテレビ業界は大きな変革期をむかえています。なので、私が入社した頃のように「番組を作っていて楽しい」ということだけでは、若い人たちはやる気が保てないのかもしれない。1on1で話をして、なんとなくのモヤモヤを払拭できるといいな、と思いますね。

「1on1は相手と向き合う時間」

――1on1に取り組まれてから数年、現状社内でどのように受け止められていますか?

中田:1on1という言葉は、社内ではすっかり浸透したと思います。「1on1で話すから」とか「1on1で話したよ」っていうのは、「ちゃんと話してるよ」というサインになっていると思います。「相手と向き合う時間」として、1on1がみんなの中に刷り込まれてるという感じはします。

 人材開発部が1on1の浸透度について「生声ヒアリング」というのを実施したところ、たとえばある局は1on1がすごく定着している。そこでは、一人ひとりのメンバーについて、どういうコンディションで仕事ができてるかを共有しようという場があるそうです。

 管理職としては、「1on1をきちんとやってないと、その人について語れないよね」ということなのです。もう人材育成のシステムに組み込まれているんです。実感として、1on1が根づいている部署には、必ず「きちんとやっている上長」がいます。その人の姿勢が現場に伝播しているんですね。

 あとは、「話したいけど、きっかけ作りが難しい」と感じた時に、1on1という制度があると、誘いやすくなったり、ハードルが下がったりする、という声もありますね。

1on1はお互いが得する時間

――今後の展望について教えてください。

中田:人材開発部の調査によると、部署によって実施率の開きが出てきているようなので、幹部管理職のマインドセットを今一度見直すタイミングに来ているのではと思います。

 展望でいうと、この4月から1on1の実施評価がスタートし、部署ごとの実施率が可視化されました。会社の中期経営計画で、「1on1の実施目標は100%」と謳っていることも大きいです。

――最後に、中田さんご自身が1on1によってプラスだと感じた例を教えていただけますか?

中田:私はこれまで、若手からシニアの方まで、様々な年代の方と1on1をしてきました。1on1で一人ひとりと向き合う時間は、自分に向き合う時間にもなりました。

 特に若手の社員には悩みがあれば聞き、成長を支援することはもちろんですが、プライベートの大切なイベントを共有してもらう機会でもあったことは、私にとって大きな喜びでした。

 シニアの方とは、かつての先輩と後輩に戻れるというメリットがありました。日頃は周囲を穏やかに見守ってくれている方も、1on1になると、業務の進め方や、人への対応について、私にアドバイスをしてくれるので、自分を確認できる時間にもなっていました。

 そんな様々な世代の方との1on1は、「私も得する時間」だと感じることも多かったです。

 本来は、部下のための時間だけれど、それだけではない、というのが私の1on1です。

(本記事は、『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』に関連した書下ろし記事です)