自信もつき、人生が変わった。
今ではレストランをいくつも経営し、料理人として業界で華々しく成功している。
「中学時代のクラスメートは誰も自分ほど成功していないよ」誇らしげにそう言えるまでになった。
ただ、これだけの成功を収めてもADHDの問題が消えたわけではない。仕事以外では何かをやり通すことが難しいし、仕事と関係のない社交の場では集中していられないために薬を飲んでいる。
しかしこの男性は夢中になる能力を仕事に活かすことで成功したのだ。
雑談は苦手なのに取材は冴える
ADHD記者の魔法の15分
別の患者にジャーナリストとして活躍する男性がいるが、大人になってから一度も人と会話している時に集中していられなかったという。数分もすれば退屈してしまい、その場からズームアウトして他のことを考えてしまう。そんなだから相手には興味がないと思われてしまい、当然会話はうまくいかない。ただしインタビューというシチュエーションだけは例外だった。
カメラやレコーダーが回り、15~20分しか時間がないとなると急に人が変わったように燃えるようなフォーカスが生まれる。
「『きみには話すつもりもなかったことまで話してしまう』とよく言われます。普段は人の話なんて聞いていられないのに、インタビューとなるとこんなに集中できるのが不思議だけど。しかも人の心を開くことができるなんて。プライベートでは真逆なのに……」
人との会話に無関心なのにインタビューが得意だなんて矛盾しているように思えるが、ADHDという見地から見るとおかしなことではない。
彼のハイパーフォーカスはインタビューという状況が充分に切迫していると感じられるからこそ生まれるのだ。そうやって取材対象に強く興味を示すことで相手は自分がちゃんと見てもらえていると感じ、心を開き、当初考えていたより多くを語る。しかし普段の会話は充分には面白くないので退屈してしまう。
他のADHDの患者と同じようにこのジャーナリストも「オンかオフか」の2択だ。社交の場では興味が湧かず気もそぞろだが、インタビューをする時には集中力が最大限になる。間が存在しないのだ。