トランスのような超集中は
向け方次第で大きな武器に

 ADHDの子供がパソコンの前でハイパーフォーカスしている時には親がいくら声をかけてもパソコン画面から注目を移すことはできないだろう。親の言葉では充分なドーパミンが出ないからだ。ドーパミンが充分に増えない料理に手を付けないのと同じで、ゲームから注目を奪おうとする対象にフォーカスを移すことができない。

 ゲーム以外の刺激をすべて遮断する耳当てと目隠しをしているような状態なのだ。これは1つのことにハイパーフォーカスしているというよりも別の物にフォーカスを移せないという現象で、まるでトランス状態に陥ったようにゲームやネットサーフィンに没頭してしまう。

 ADHDだとゲームに夢中になりやすいため、過去にはゲームのせいでADHDになるという誤解が生じたこともあった。しかしそれは根拠のない作り話で、ゲームのせいでADHDになることはない。

 一方で、ADHDの傾向が強い人は素早くごほうびをもらえるゲームにはまりがちだ。脳はその類の素早いごほうびに惹きつけられるので夢中になるのも無理はない。

 ゲームに取り憑かれたようになり、気付いた時には5時間も経っていて、大事な仕事のメールに返事をしていなかったり宿題をやっていなかったりしたら当然問題になる。

 このようにハイパーフォーカスが〈弱み〉になり得ることは容易に想像がつくが、そのフォーカスを何か大切なこと、例えば仕事で長期的に努力しなければ到達できないようなゴールに向ければ〈強み〉にもなる。

 起業家が何時間でも仕事に打ち込めば奇跡のような成果を上げられるだろう。作曲家が曲作りに取り憑かれ「もう5時間も経ったのか」と驚いた時には、30分であきらめた人より良い音楽が作れているはずだ。

 このようにハイパーフォーカスを建設的なことに向ければ〈強み〉にもなる。

「好きなことを見つけて
情熱を傾けられることを仕事に」

 何度も聞いたことがあると思うが、結局は「好きなことを見つけて、情熱を傾けられることを仕事にしよう」に尽きるのだ。きれいごとに聞こえるかもしれないが、誰にとっても、中でもADHDの傾向が強い人にとっては重要なことだ。