ADHDの人はよく「集中力がゼロかマックスかのどちらか」だと言う。心からわくわくするか全然面白くないかで、その間が存在しないのだ。覚えがあるなら、集中力が最大限になる状態、つまりハイパーフォーカスできる状況をつくるようにしよう。
ADHDの場合、好きではないことで人より秀でることはなかなかないだろう。モチベーションが湧かないからだ。
しかし情熱を傾けられるものを見つければ100%全力投球できて、抜きん出るための条件が揃う。ADHDの〈強み〉の1つであるハイパーフォーカスを活かすことができるのだ。
私の患者に料理人として働く男性がいる。物心がついた時からいつも退屈していてやる気がなく、学校でもうまくいかず、家ではパソコンの前から動かなかった。学校ではひどい成績を取り続けて自分はクラスで一番ダメ、成績だけでなく何もかもダメな人間だと感じていた。
落第点ばかり並んだ成績表を持ち帰るたびに自信を失い、18歳の時点で自分が将来人より秀でるとか、何かに打ち込めるという期待は一切なかった。まだ始まってもいない社会人生活に何の希望も持てなかったのだ。
落第生だったADHDの人が
料理の世界で尊敬される存在に
しかし19歳の時にレストランでアルバイトを始め、そこで突然料理に目覚めのめり込んだという。レストランの厨房は別世界のように感じられた。ひっきりなしに注文が入ってくるし、あれこれ気を配らなくてはならない慌ただしい環境がぴったりだった。
「厨房では仕事に夢中になれた。先輩たちの経験や知識をスポンジのように吸収していったんです」
エネルギーとフォーカスのすべてをゲームではなく仕事に傾けるようになり、周囲も目を見張るほど優秀な料理人に成長した。人生で初めて得意なことを見つけられたどころか、他の人をぐんと追い越したのだ。
「初めて自分も価値のある人間だと感じられるようになった。周りに尊敬されるようなね」