イライラするのは、実は愛情飢餓感が激しい時である。愛情欲求が満たされていない時に人はイライラする。
睡眠不足でイライラする、疲れるとイライラすると言う。しかし、愛情欲求が満たされていれば、同じ状態でもそれほどイライラするわけではない。
愛情飢餓感が強いということは、「現実の自分」と「理想の自分」が乖離している心理状態でもある。
十分に愛されたということは、その2つの「自分」が乖離していないということである。この人は「家族の者が私の思い通りにならないととても腹が立つのです」と言っているが、そうではない。自分が自分自身に「とても腹が立っている」のである。
スキャンダルを叩いていれば
心の不安を忘れられる
人々はなぜスキャンダルを信じるか?
それはそのスキャンダルを信じることで、自分の心の葛藤を一時的に解決できるからである。スキャンダルを流す側も、信じる側も、抑圧と投影の心理過程の中で動いているのである。流す側も信じる側も、心に問題を抱えている。

デマも同じである。デマを信じる側の人には、信じるだけの理由がある。そのデマの内容を信じることで、自分の心の葛藤を解決しようとしているのである。デマを信じることで自分が一時的にせよ救われるから、デマを信じるのである。
自分はすぐに人のうわさ話を信じてしまうと思う人は、一度自分の心の底を正面から見つめてみることである。人は、心に応接間と禁断の裏部屋とを持っている(注2)。家に入るのには正面玄関ではなく、裏に階段が用意してある。他人の欠陥とか、不道徳についてのデマは、裏階段を上がってやって来る。
欲求不満な人にとって、「他人の欠陥とか、不道徳についてのデマ」は傷ついた心の癒やしの薬である。もちろん本質的に癒やされるわけではなく、偽りの癒やしである。麻薬と同じである。
(注2)Gordon W. Allport and Leo Postman,The Psychology of Rumor, Henry Holt and Company, 1947.南博訳、『デマの心理学』、岩波書店、1952、23頁