ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案したのが、著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。著者が言うパリジェンヌとは、「すっぴん=ありのままの自分」をさらけ出し、人生イロイロあっても肩で風を切って生きている人のこと。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように自分らしく生きる考え方をお伝えします。

【日本の常識はパリの非常識】パリジェンヌのママが絶対着ないものとは?Photo: Adobe Stock

「ワーキングママ」と「ステイ・アット・ホーム・ママ」

「働くお母さん」や「ワーキングママ」という表現がありますが、パリでは一切聞かない言い回しです。あまりに当たり前のことだからです。反対に「ステイ・アット・ホーム・ママ」という表現を聞いたことがあります。この「在宅ママ」は、いわゆる専業主婦、もしくは在宅ワークをしている女性、つまり少数派のお母さんのことを指します。

 ある日、私は娘が2歳になった時から通っている保育園の「朝カフェ」に参加しました。朝の8時半から始まる保育園ですが、子どもを送り届けた後、任意の親が近場のカフェに集まり、出社前の貴重な時間を使って情報交換をします。月一で行われるこの朝食会に集まるのはほとんどがお母さん。時々お父さんがチラホラ交ざるという感じです。

 今日集まっているのは、老人ホームで経理の仕事をしているアンナ、デリバリー系のスタートアップに勤めているセリーヌ、薬品業界でマーケティングをしているというマノン、パティスリーを経営しているジョゼフィーヌ、そして大学教授のエミリーと、働く女性ばかりです。在宅ママは一人もいません。

「お母さんっぽい」格好をしているパリジェンヌは一人もいない

 おしゃべりなパリジェンヌが数名集まると、話題は尽きません。保育園で行われた行事の感想、子どもの病気の話、習い事に関する情報交換。ひとしきり子どもの話が終わると、今度は仕事の話になります。

 初めて朝カフェに参加した私は感心してしまいました。時間の無駄かもしれないとタカをくくっていたら、とても有益な会だったのです。パリジェンヌにとって、ママ友との朝カフェは異種業界とのネットワークを広げる好都合な機会でもあるのです。

 集まっている母親のうち、「お母さんっぽい」格好をしているパリジェンヌは一人もいません。ミニスカートに長いブーツを履いている人もいれば、ジムに直行できそうなスポーツ・ウエアを着ている人もいます。学生が穿きそうな穴あきのジーンズの人もいれば、胸元が広く開いたシャツを着こなしている人もいます。

何それ? どうして母親になったからって、ルックスを変えなければならないの?

「こっちって、ママさんルックっていうものがないのね」

 隣席のエミリーに何げなくそう漏らすと、彼女は「ママさんルック」という表現の意味がわからないと言います。

「いかにもお母さんっぽい格好ってことよ」

 そう受け流そうとすると、彼女はますますわからないと言います。もともと物事を定義するのが大好きなフランス人ですが、エミリーは厄介なことに教授です。定義にはものすごくこだわります。

 困ってしまった私は、「これは日本のことだけど」、と前置きしながら、「お母さんっぽい」とは反対に「母親らしからぬ」と思われる格好を幾つか挙げてみました。

● 胸元が広く開いた服
● 身体のラインがくっきり出る服
● ピンヒールの靴
● ミニスカートや短パン
● 長い爪に派手な色のマニキュア

 胸元が開いているシャツを身に纏ったセリーヌはそれを素早く聞きつけ、すっ頓狂な声を出しました。

「何それ? どうして母親になったからって、ルックスを変えなければならないの?」