そのとおり。特に編集の仕事は、デザイナーやライターなど多くのプロと連携する必要があります。だからこそ、僕は優秀な人に出会ったら、絶対に手放さない。
ただし、そのためには最低限、自分自身も文章やデザインの良し悪しを判断できる目を持っておかなきゃいけない。自分の審美眼は常に磨いておく必要があります。
――なるほど。では、そういう人たちとのコミュニケーションで、気を付けていたことはありますか?
まず、気は遣いますよ。特に、この人はすごいと思った相手には、信頼されるような待遇や報酬を用意する。なぜなら、ジャンプというブランドで仕事をすると、名前が売れて、他のメディアからも依頼がくるようになる。でも、それで離れられてしまったら元も子もないですから。
だから僕は、最高の原稿料を払うのが最大の引き止め策だと思っています。もし予算が足りなければ、原稿の扱いや露出を工夫することで、名を上げる場を用意します。
――付き合う人のモチベーションを高める工夫をしているんですね。
そう。僕と仕事をすれば「楽にお金が稼げる」と思ってもらえるのが理想。
例えば、当時ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズの攻略本を出すとき、外部のデザイナーやライター、イラストレーターへの報酬を買い切り制から印税契約に変更しました。それで彼らは収入が桁違いで入るようになった。そうすれば、もう他では仕事しないと思ってくれるようになる。報酬の設計も、才能を引き寄せて維持する大事な戦略なんです。
――編集長になってからはどうですか?例えば、よく部下に伝えていた言葉ってありますか?
特にはないかな。僕は直接、編集部員を細かく指導するより、副編集長やデスクに任せていたから。強いて言えば、彼らには「部員をよく見ろ」とは意識して言っていました。
――現場の様子をきちんと把握する、ということですかね。
それともうひとつ。「早く帰って寝なさい」って。
――めちゃくちゃ良い上司ですね!(笑)

出版社って基本的に勤務時間が不規則で、しかも集英社がある神保町は飲食店が多くて誘惑が多い(笑) 会社にはシャワーやベッドもあるから、泊まりこんで仕事をする社員もいた。
でもそれって、「仕事をしている気」になっているだけ。全く生産的ではないんです。ちゃんと家に帰って、しっかり睡眠を取る。それが自己管理。自分の管理ができない人間は、他人のマネジメントもできない。
打ち合わせも、1時間までと決めていた。1時間以上やっても、だいたい時間の無駄。だから無駄は徹底的に省く。あと、僕が編集長になった時は、どこにいるかだけ会社に報告すればセルフマネジメントで良しとした。
基本は、「自分がされて嫌なことは、他人にもしない」ってことです。部下には干渉しすぎず、成果だけを見る。距離感は大事にしています。仕事さえちゃんとやってくれれば、細かいことは言わない主義です。
