給料や福利厚生に関係なく、楽しく働けるということ
本田 楽しかったんですよね。
渡邊 自分たちでルールを決めたりしていましたしね。あと、上司が、例えばアメリカ出張があったりするじゃないですか。すると、送迎しちゃったりもするわけです。自分の車を出して。
上司をヨイショしたかったわけではまったくなくて、面白がってやってたんです。こっそりフライトの時間を秘書に聞いて、事前連絡なしで迎えに行ったりすると、「なんだよ、お前、来てたのか?」なんて驚かせたりして。
本田 給料は普通だったんですよね。
渡邊 そうですね。まったく普通ですね。何か特別なものが用意されていたわけではない。それこそ本田さんの新刊『あたらしい働き方』に出てくる会社のような制度や仕組みはまったくなかった。でも、なくてもやっていましたね。
本田 実は、いい環境があっても、生かせるかどうかは、本人次第なんです。ちょっと前にアメリカの大手IT企業が在宅勤務を禁止にしました。やっぱり在宅勤務はうまくいかなかったんだ、という声もあちこちから上がったんですが、僕は全然違うと思っていて。
昔はその会社には、イケてる社員ばかりが集まっていたんです。ところが、業績が悪化してしまい、会社のブランド力も下がって、言葉は悪いけれど不良社員が増えてしまった。そういう人間に在宅勤務を与えると、怠けて何もしない、なんてことが起きるわけです。それを排除するために、一度、やっぱり諦めないといけなかったんですね。
つまり、そんなふうに権利だけ使おうとする人間と、権利を生かしてより自由な立場でいい仕事をしようとする人間と、二種類いるんだと僕は思うんです。本来、入るべきでない人が入ってきてしまったりすると、本来は自由を獲得するための制度だったのに、違う利用のされ方をしてしまう。これでは、会社も個人も成果につながりません。
だから、どんな企業でも、自主的に動けない、モチベーションのない人間が集まってしまって、誰も働かなくなるんですよ。それを考えると、渡邊さんがおられた頃のオリエンタルランドというのは、ちゃんとやる人ばかりだったんじゃないかと思いますね。個性的ではあったのかもしれないけれど、自分で動ける人たちだった。指示を待って「お前これやれよ」と言われてから動く人ばかりだったら、東京ディズニーランドは、とてもできなかったと思うんです。
渡邊 アメリカ側から決められたこともあったけれど、自分たちで考えて動いたものも、たしかに多かったですね。旅行業界の常識だったコミッションをくつがえしたときも、どうして常識に従わないといけないのか、という思いがあった。
1000万人の集客を目指していた東京ディズニーランドは、当然、旅行業界にとっても大きな魅力に映っていたと思います。でも、旅行会社と一緒にプロジェクトを進めることになったとき、疑問が浮かんだんですよ。自分たちの投資でこれだけいいものを作っているのに、どうして東京ディズニーランドから儲けようとするのか、と。旅行会社なんだから、交通手段で儲ければいいじゃないか。だったら、コミッションを少なくしても取引は成立するはずだ、と考えたんですね。
会社にすれば、コミッションを下げてもらえることはありがたいことです。当時、私は新人でしたから、「お前、そんなこと本当にできるのか」と言われたんですが、「できます」と大ボラを吹きまして(笑)。実際に、やっちゃったんですけどね。