秘密を墓場まで持っていった辻親子
日米のしかるべき記録に、不自然なほど言及なし

 児玉は、おしゃべりなフィクサーだった。自分の功績を大きく見せる節もあった。

 対照的に、辻嘉六、辻トシ子の親子は、重要なことを最後まで語らず、墓場まで持っていった。

 興味深いことに、日米のしかるべき記録において、辻親子のことは、不自然なほどに言及がない。

 例えば、宏池会の創設者である池田勇人の元秘書で、同会の事務局長を長年務めた木村貢が著した『総理の品格』は、宏池会会長を務めた元首相の宮澤喜一から「宏池会史」と推薦される全277ページからなる書物だが、辻トシ子のことは一切出てこない。

 同会の最後の会長で、元首相の岸田文雄は、辻トシ子について「宏池会が政局の中で生き残っていくに当たって、他の派閥といろんなやりとりがありました。政権を取りにいくこともあったわけですが、その際に辻さんの存在、人脈ですとか活躍が大きな意味を持っていた」と語った。しかし、「表の金庫番」である木村は、「裏の金庫番」だった辻トシ子を宏池会の歴史から消したのである。

 辻トシ子や辻嘉六の記録がないのは、米国の公文書でも同様だ。前出の本特集の#9や、#12『大平内閣誕生に向けた「昭和の女帝」辻トシ子による秘密工作を解明!日米オレンジ問題で福田派の“利権”を切り崩し、宏池会に利益誘導する剛腕』で見てきたように、辻親子は日米関係においても重要な役割を演じた。にもかかわらず、二人に言及した米公文書はいまのところ発見されていない。

 歴史的に重要な人物で、CIAとも密接につながっていたのに、米公文書での言及が不自然なまでに少ない人物に、元首相の岸信介がいる。

 岸に関する文書が少ない主な理由として、(1)資金の流れを含む米国との取引が全て明るみになると、現代政治に重大な影響をもたらす恐れがある、(2)岸の孫である安倍晋三が最近まで生きていた――という2点が、研究者の間でいわれている。安倍は2022年に、トシ子は2020年に亡くなった。彼女には、岸にとっての安倍のような子孫がいない。今後、辻親子の資料が公開されれば、謎を解くカギになるかもしれない。

 とはいえ、米政府の情報公開を頼ってばかりもいられない。辻トシ子が亡くなってから、側近たちが重い口を開き始めたのも事実だ。辻嘉六の遺書や辻トシ子の手帳といった史料を入手することができたのも、そのおかげだ。本特集を契機に、辻親子の取材をさらに進め、謎を解明していこうと考えている。(敬称略)

Key Visual by Noriyo Shinoda