トラックレコードのない若手の苦悩

 お母様が寝込んでしまった理由はブランド志向というやつですよね。特に私のようなオールドタイマーは、東大を出て大蔵省(現・財務省)に入るといったブランド志向が強い。アメリカは逆で優れた人ほど起業する。これは文化の違いかもしれませんね。

 文化ということでいえば、絶対的に欠けているのがエンジェルの存在。若き起業家を応援してくれる資産家がいません。もちろん国のサポートもありません。

出雲 おっしゃるとおりだと思います。

 俺も起業して財を成したいと思えるようなロールモデルとしてのサクセスストーリーが少ないんでしょう。アメリカだと無数にありますが、日本では世界レベルに達している会社はきわめて少ないですよね。国際比較でいうとまだまだです。そんな中で起業した出雲さんは希有な人ですね。

出雲 国の資金もそうですし、エンジェルの不在。おそらくエンジェルの不在とラージケースのロールモデルがないというのは、非常にオーバーラップする部分があると思われます。先に成功した人、アントレプレナーが次はエンジェルになって、後輩を育てて、育った後輩がさらに後輩のエンジェルになるという生態系、つまりシステムが西海岸では存在していますが、日本にはありません。

 ファーストエントラントには特に厳しく、ファーストエントラントにトラックレコードを聞くという、何ともジョークのような話が日本には現実にありますね。私もかなりセールスに行きましたが、最初は全然ダメでした。

 ドアオープンはどれくらいの割合ですか?

出雲 私は3年かけて約500社回りましたが、ドアオープンは半分くらいですね。そして話を聞いていただいて、最後にこれで稟議書を出すというところまでいくのですが、主な取引先や収益の話に及ぶと皆さん尻ごみしてしまう。トラックレコードがないので本当に苦戦しました。

 ただ、2008年に伊藤忠商事が出資をしてくださったんです。そこからですね、ミドリムシビジネスを加速させるために素晴らしいパートナーシップが築けるようになったのは……私が言うのもおこがましいのですが。でもそれは伊藤忠商事がやると言ってくださったからこそであって、ファーストエントラントに対して日本は本当に厳しいですよね。

 横並び主義なんですよね。ビッグネームがやるならやろうという文化は変わらないと思います。制度やシステムは容易に変えることができても、文化というのはなかなか変わらないんじゃないかな。

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 起業家に厳しいのは日本の文化なのか。それでも未来を切り開いてきた出雲氏と、外資系企業で働く日本人が少数派であった時代に、グローバルな視点で仕事を捉えていた新氏。同じ開拓者として厳しい局面を何度も乗り越えてきたお2人の話は後半に続きます。

 次回は、8月5日に更新を予定しています。


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