人事が作らない人事制度
現場が作る人事制度とは
本田 目標がない会社は別ですが、目標を持っている会社の場合、評価を受ける際に極めて重要になるのが、目標の設定をどうするか、だと思います。
笹山 目標設定は半年に一度、シートを使って行っています。上司からのマストの部分と、部下がやりたいウォントの部分をお互いに聞き、納得するまで話し合ってシートに書き記します。それを半年後に振り返るんです。このシートを作成するとき、上司と部下が向き合うのではなく、できるだけ横に座るようにしています。あとは、見晴らしのいい場所、明るい時間帯を選ぶ。気持ちのいい場所で、上司と一緒になって考えるということです。
本田 窓もない薄暗い会議室で、上司と向かい合って今後半年間の目標を立てるのと、見晴らしのいい場所で景色を見ながら気持ちよく、しかも上司が隣に座って目標を立てるのとでは、まったく違ったものができるような気がしてならないのは、私だけでしょうか(笑)
笹山 まずは、部下の気持ちを重視します。定量的な目標、定性的な目標を両方作ることになりますが、書くことは簡単なんです。でも、書いても楽しくない目標になっていたら結局、忘れてしまいますし、目標を追うことはなくなってしまう。定量的なことばかり書いて、部下のモチベーションが上がらないのであれば、定量的な部分を少なくすればいい。それは上司のさじ加減に委ねられています。
本田 私がいいな、と感じたのは、プライベートの目標についてもたくさん部下に書いてもらう、ということでした。
笹山 “ゴルフでスコアが100を切るように頑張る”なども、目標シートに書きます。仕事とプライベートを織り交ぜて書くことで、ワークライフ・インテグレーションを目指せるかなと。会社の役割だけでなく、家庭での役割も書いてもらっているという上司もいますね。マネージャーとして部下にどう接するか、というだけでなく、家庭ではどんなことをしていくか。仕事もプライベートも両立して追いかけてもらう。実は両方がうまくいくことが大事だと思うんです。仕事だけうまくいって、家庭がうまくいっていなかったら、やっぱり後々、仕事に影響は出るはずです。両方がうまくいくようなサポートをしていきたいと考えています。
本田 仕事さえ充実していればいい、プライベートさえ充実していればいい、というわけではまったくないと私も深く共感します。会社がそのことをよく理解していると、こういう仕組みが生まれるのですね。
笹山 人事制度は、人事が作らないんです。現場のメンバーが、人事制度を作っています。こんな制度だったら自分たちはうれしいね、とか、公平だね、とか、いろんな議論をする。いいマネージャーや活躍しているメンバーがいれば、どうすればそういうスターが生まれるのかを考えて、社員がベースを作る。人事はそれに付き添って、ディスカッションしながら最終的にまとめていくお手伝いをするような役割なんです。
本田 珍しい制度ですね。
笹山 評価は、店舗の責任者が出席する評価会議で行われます。丸2日かけて、社員500人規模の評価をする。店舗の責任者が、全員の名前と評価をPRして、それについて他の店舗の責任者や人事が「辛いんじゃないか」「甘いんじゃないか」と議論をしていきます。時には、ルールに縛られない評価もしていく。一人に対しての評価をこれくらいしっかりしていこう、という発想が生まれているのも、人事部が制度を作っていないからなんです。人事部門の担当者も、専任ではなく現場からどんどん入れ替わっていきます。だから、発想が柔軟になる。ルールは一度、作ったら終わりではなく、5年前に作ったルールが時代に合わなくなってきていれば、どんどん作り替えていきます。
本田 社員の側をきちんと向いた制度なんですね。
笹山 実際にきちんと運用される制度を作りたいんです。作っても誰も使わない制度って、けっこうあるんですよ。そういうものはどんどんなくしていく。あたらしいものに作り替えていく。そうやって自分たちが作って、しっかり使われて残った制度は、みんなが愛するんです。