総合商社・伊藤忠で社長、会長を歴任した丹羽宇一郎さんは、2010年6月から12年12月まで、民間出身では初めて駐中国大使を務めた。着任直後に尖閣諸島での漁船衝突事件が発生し、昨年は反日暴動が勃発。在任中はまさに尖閣に始まり尖閣に終わったと言ってよい。なぜ両国関係は、ここまで悪化したのか、改善の道はあるのか。丹羽さんは①底流には歴史認識を巡る相違があること、②グローバル時代には国内問題は同時に国際問題であるという認識を持つこと、③日中両国の青少年の交流から再開せよと言う。(聞き手 ダイヤモンド・オンライン編集長 原英次郎、週刊ダイヤモンド編集部 脇田まや/撮影 宇佐見利明)
1939年名古屋市生まれ。1962年名古屋大学法学部卒、伊藤忠商事入社。主に食料部門に携わる。98年社長就任、業績不振に陥っていた同社を立て直す。2004年会長。10年同社取締役退任。10年6月~12年12月まで中華人民共和国駐箚特命全権大使を務める。主な著書に『人は仕事で磨かれる』〈文春文庫〉、『北京烈日』(文芸春秋)など。
国民感情の底流にある歴史認識
――今年は日中が国交回復して41年、日中平和友好条約が結ばれてちょうど35年が経ちますが、両国の関係は過去最悪と言ってよいほど悪化しており、政府間の交流も途絶えたままです。なぜこうなったと見ておられますか。
いろんな要因が複合的にあると思うんだけれど、国民感情の違いが底流にある。その国民感情というのはある意味では、歴史の問題、歴史認識の問題でもあるんですね。
どういうことかと言うと、ご存知のように歴史は “history”で“his story”ですよね。その時に問題は“Who is he?”。彼の叙事詩であり、彼の物語だから、heがだれかが問題になる。その時のheはいつも強者であり、国と国で言えば戦勝国であるわけですね。例えば、中国であれば中国共産党、ソ連であればソ連共産党の歴史。じゃあ日本であれば、恐らく長らく与党だった自民党から見た歴史ということになるでしょう。