インターネット上に溢れる口コミ情報の分析から衆議院総選挙の結果予測に挑んだ「クチコミ@総選挙」。気になる的中率は、約8割だった。この結果を当事者はどう捉えているのか。大元となる予測技術の開発を手がけた東京大学の末並晃氏に総括してもらった。(文/東京大学工学部システム創成学科 末並晃)

 インターネットが普及し、人々の生活インフラとなって久しい。Web2.0という言葉が使われ始めたのも4、5年前であり、もはや過去の話だ。今ではユーザの生の声は他のユーザにとって貴重な情報であり、商品のマーケティングや企業のブランディングにもよく利用されている。

 このような口コミの情報をもとに新しい知識を抽出する研究が盛んになっており、そのひとつに公職選挙の結果を口コミから予測するという研究がある。政権選択を争点として行われた2009年総選挙の予測結果は果たしてどうだったのだろうか?

口コミから選挙結果を予測できるのか?

 口コミ情報はすでに企業にとってはマーケティングにおける重要な要素である。商品の購入やサービスの利用におけるユーザの行動はAIDMA(Attention,Interest,Desire,Memory,Action)からAISAS(Attention,Interest,Search,Action,Share)に移行したと言われており、インターネットを利用した検索(Search)や情報共有(Share)が容易になったため、マーケティングやブランディングの手法も変化してきている。

 これと同じことは公共性の高い分野でも見られるのではないかと考え、研究を進めた結果、消費者の間で口コミが広がった商品が売れやすくなるのと同様、有権者の間で口コミが広がった、いわば話題性のある候補者が公職選挙においては当選する可能性が高いということがいくつかの事例研究からわかってきた。

有権者の投票行動は何に起因するか?

 公職選挙における有権者の投票行動研究は、以前から多くの研究者によって行われてきた。しかし、有権者の投票行動は、地域の人口構造や産業構造、選挙制度、歴史的背景などに大きく依存するため、非常に細分化が激しく、個別性の高い研究分野であるといえる。