冷静な分析ではなく先客の判断が根拠に
株価を高騰させるのは「群集心理」
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とりわけ行動ファイナンス理論の分野からもたらされた洞察は、「株式市場を動かす心理的要因」として注目を集めました。たとえば株価高騰メカニズムの説明において、シラーはレストランのエピソードを持ち出しながら「群集心理」を分析しています。
そのエピソードとは、隣り合うレストランがあるとして、最初の客は1人も客が入っていない2軒のうちのどちらか一方を選ばなければならず、実際どちらかに入る。次に訪れた客は、先客が一方のレストランを選択したことを根拠にして同じレストランを選ぶ。3番目の客も同様の選択をする。すなわち、客は自分で得た情報だけに頼るのではなく、先客の判断を参考にできる。2つのレストランに格差はないのに、こうして、最終的にはすべての客が一方のレストランで食事をすることにもなりかねない……というものです。
レストランのエピソードと、その根底にある経済理論は、それ自体としては株式市場におけるバブルの理論ではない。だが、株式市場での行動と関連していることは明らかであり、理性的な投資家がどのように道を誤ってしまうかという理論の基礎になりうる。
こうした理論をもとにすれば、株価水準についての一般的な考え方――株価は、株式の本当の価値がどの程度かについて、全投資家が一種の「投票」を行なった結果として決まるという考え方――は完全に誤りとなる。実際に投票している人など、まずいないのだから。
人々は、市場についての判断を下すうえで、できるだけ時間と労力を無駄にしないような合理的な選択をしているのであり、したがって、市場に対しての独自の影響を与えない道を選んでいるのである。突き詰めて考えれば、こうした「情報カスケード」の理論はすべて、「本当の基本的価値についての情報が、提供・評価されない」ことに関する理論なのである。(185ページ)
シラーは米国株価の割高感に警告を発するとともに、バブル崩壊後の混乱を最小化するための処方箋、適切なリスク管理を推進する方法、さらにバブルを生み出さないための制度的対応など、投機的な市場変動に対処する政策についても、建設的な提言を行なっています。
市場を閉鎖したり取引を制限したりという形で市場に介入する政策は、非常に特殊な状況下では有効に見える場合もあろう。しかし、投機バブルによって引き起こされた問題に対するソリューションとしては、あまり優先すべきではなかろう。投機的市場は、非常に重要なリソース配分機能を持っており(これについては当然のこととして、本書では特に触れなかった)、バブルを手なずけるための市場介入は、こうした機能にも介入することになってしまう。
結局のところ、自由社会においては、人々が自ら犯す失敗によるすべての結果から彼らを保護することはできない。完璧に保護しようとすれば、彼らの自己実現の可能性を否定することになってしまう。根拠なき熱狂や不合理な悲観主義の波がもたらす影響から社会を完全に守ることはできない。こうした感情的な反応は、それ自体、人間が人間である条件の一部なのだから。(277ページ)
そして、次のように結論付けています。投機バブルに対処するには、もっぱら自由な取引を推進し、誰もがより多様で自由度の高い市場に投資するチャンスを拡大する以外にない――。