今年10月より、川崎重工が自社開発した「細胞自動培養ロボットシステム」は、いち早く海外で実績をつくるべく、タイ国立のチュラロンコン大学で本格的な実証実験が始められた。来年にも、世界初となる「自動培養による再生・細胞医療の薬事承認」の取得を目指す
Photo:川崎重工業

 世界的に見れば、遅きに失した感もあるが、川崎重工業にとっては、“40年越しの技術”がこれまでより一歩前に進むことになった。

 この10月21日より、川崎重工と医療検査機器製造・販売大手のシスメックス(兵庫県)は、“医療用ロボット”の共同開発に向けた活動を本格的にスタートさせた。

 準備に1年半を費やした新会社「メディカロイド」(メディカルとアンドロイドの造語)は、両社の得意分野を持ち寄る。医療現場における検査・診断、治療(手術)、患者の自立支援などを目指し、低コストかつ信頼性の高い国産医療用ロボットの事業化に乗り出す。

 シスメックスの家次恒会長兼社長は「日本は検査機器には強いが、治療機器は弱い。川崎重工のロボット技術を“医療用”として世界に発信したい」と力を込めた。

 同社は、1961年に旧東亞特殊電機(現TOA)から分離・独立した医療機器専門会社で、現在は臨床検査機器、検査用試薬ならびに関連ソフトウエアの開発・製造・販売・輸出入を手がけ、170カ国以上にネットワークを持つ。とりわけ、体内から血液や尿、細胞などを取り出して身体を調べる「血液検査」(血球計数検査)の分野では、世界トップの水準にある。

 一方で川崎重工は、69年に国内初の“産業用ロボット”の開発に成功して以来、自動車工場などで使われるロボットの製造・販売を続けながら、創薬研究で使用する専用装置「細胞自動培養ロボットシステム」などを開発してきた。

「将来的に、“メディカロイド”の名前が医療用ロボットの世界標準になることを目指す」と大きく出た。まだ始まったばかりだが、夢は気宇壮大である。右端の人物が新会社を率いる橋本社長
Photo by Hitoshi Iketomi

 メディカロイドの橋本康彦社長(川崎重工精密機械カンパニー・ロボットビジネスセンター長を兼任)は、問題意識をこう述べる。 「世界には、すでに実用化された医療用ロボットが多数存在する。日本の大手ロボット・メーカーは、技術的に通底する産業用ロボットで培った技術を持っているのに、いまだ医療用ロボットの分野に出て行っていない」