それでは具体的に、引きこもりの人はどんな「目的」を持って自室に引きこもっているのでしょうか。

青年 どうして外に出たくないのですか? 問題はそこでしょう!

哲人 では、あなたが親だった場合を考えてください。もしも自分の子どもが部屋に引きこもっていたら、あなたはどう思いますか?

青年 それはもちろん心配しますよ。どうすれば社会復帰してくれるのか、どうすれば元気を取り戻してくれるのか、そして自分の子育ては間違っていたのか。真剣に思い悩むだろうし、社会復帰に向けてありとあらゆる努力を試みるでしょう。

哲人 問題はそこです。

青年 どこです?

哲人 外に出ることなく、ずっと自室に引きこもっていれば、親が心配する。親の注目を一身に集めることができる。まるで腫れ物に触るように、丁重に扱ってくれる。
 他方、家から一歩でも外に出てしまうと、誰からも注目されない「その他大勢」になってしまいます。見知らぬ人々に囲まれ、凡庸なるわたし、あるいは他者より見劣りしたわたしになってしまう。そして誰もわたしを大切に扱ってくれなくなる。……これなどは、引きこもりの人によくある話です。

 引きこもることによって、周囲(特に家族)の注目を集め、特別な存在になろうとする。もし引きこもりをやめてしまったら、自分は誰からも注目されず、どこにでもいる「その他大勢」になってしまう。アドラー心理学の目的論は、過去の「原因」ではなく、いま現在の「目的」から人間理解を進めていくのです。