東京~横浜間を移動する感覚で国外出張する時代
いまだ多くの企業では、「国外出張」というと特別な行事のように取り扱われている例も多いかと思います。しかし、国際経営の最前線で戦われている方々にとって、極端に言えば「国外出張」は、東海道線で東京から横浜に移動するのとほぼ変わらない作業となりつつあるのが現実です。
国境を越えて移動することが当たり前の業務が続くと、時差が身体に染みこんできます。締め切りが「今日」であることに気づいて右往左往したあとに、実はその締め切りが米国西部時間であることに気づいた、という経験をした方もいるかもしれません。
今日のようにグローバル化が進んだ最先端では、時差の感覚を掴み、実は24時間以上存在する1日を、縦横無尽に活かして業務を行うことが必要不可欠になりつつあるのです。
拙著でも、日産自動車のカルロス・ゴーン氏やソニーの平井一夫氏がどれだけ世界をグルグルと回っているかをご紹介しました。実際、こうした姿はもはや珍しいことではありません。
世界的なコンサルティング会社の上層部にもなると、2週間を南北アメリカ、2週間をアジア・中東、2週間をヨーロッパ・アフリカと、2週間単位で自分の時間を区切って予定を集中させ、移動し続けるライフスタイルを実践している人もいると聞きます。
日本でのみ展開している企業を経営されている方でも、日本の津々浦々にある自社の工場や販売店、そして取引先を継続的に回ることは常識であり、実践されていることかと思います。それと同じような感覚です。電車やバスに乗るように飛行機に乗り、ハイヤーを乗りこなすかのようにプライベートジェットを乗りこなすのが、世界的な企業の経営者の「現場経営」の姿なのです。
実は、研究者の世界でもそれは同様です。世界的な社会科学の研究者の中には、「デュアル・アポイントメント」といって、たとえばアメリカとイギリスの大学の教授職を兼任されているような方がいらっしゃいます。
そうした方々は、たとえば春学期はイギリス、秋学期はアメリカで教えることになります。そして、学期の間は中東やアジアなどで集中講義を行い、研究のためにまた別の国々にも滞在されます。
経営学者の世界も変わりません。研究対象として世界を相手にしているので、自分自身も世界を相手にする必要があります。海外でも教え、海外での経営も研究する、それは私が実践したい姿でもあります。
もちろん、それを実践するためには、ある種の特殊能力も求められます。
たとえば、電話会議のスキルは重要です。極めて重大な案件であっても、電話会議で意思決定を行わなければならないことは多々あります。電話会議やメールを使って、自分の事業や研究のパートナーと意思疎通をして、仕事を進めることは当然の状況だと言えます。
また、スマートフォンなどの情報機器を効果的に活用し、必要な意思決定を、全世界のどこにいても迅速に行うことも求められるでしょう。自分の限られた時間を最大限に活用するための手法を使いこなしている方々が、やはり事業の結果につなげられていると私は理解しています。