心理的なダメージを軽減し、臨機応変に相手と向き合う
では、クレーマー老人との攻防でピンチを切り抜けられたのは、なぜでしょうか? つたない接客術で、その場をしのいだのでもなければ、警察官時代に身につけた逮捕術が役に立ったわけでもありません。
あえていえば、相手に小突かれたことで「五感をはたらかせて身を守る」という本能が目覚め、「アブナイ相手をじっくり観察する」という刑事の習性がよみがえったのかもしれません。戦闘アニメのヒーローのように、華麗な変身を遂げたわけではありませんが、私の内面でなにかが変わったことは確かです。
じつは、この「なにか」がクレーム対応ではとても重要ではないかと考えています。
「犯罪捜査にマニュアルはないのか?」
こんな質問をセミナーや講演で受けることがありますが、捜査にルールはあっても、現場で役立つようなマニュアルは存在しません。犯罪者は十人十色、その目的や動機も千差万別だからです。
クレーム対応でも同じです。いまや、「モンスター(化け物)」と呼んでも差し支えないクレーマーがあちこちに出没していますが、彼らと渡り合うには、小手先の受け答えではどうにもなりません。いくら詳細なマニュアルをつくっても、クレーマーが想定通りの言動をするはずもなく、「正解」が見つかるわけではないのです。
クレーム対応でもっとも大切なのは、あなた自身の心理的なダメージを軽減し、平常心をもって臨機応変に相手と向き合うことです。