原油高の要因を巡っては、OPEC陰謀説、ファンド悪玉説などさまざまな論調があるが、真実はそのいずれでもないと気鋭の石油問題専門家リサ・マルゴネリ氏は説く。同氏が特に注目するのは、需要増大の背景にある中国と産油国の“官製”ガソリン安だ。(聞き手/ジャーナリスト 矢部 武)
石油問題研究家のリサ・マルゴネリ(Lisa Margonelli)氏 |
原油価格が高値圏でもみ合っている。2002年初めの1バレル=20ドルから、2004年9月に50ドル、2008年6月には140ドルまで上昇。(7月22日現在も120ドル台後半で推移している)。
ブッシュ政権は2003年3月、「独裁者のフセインを倒して米国民に安い石油を提供する」とイラク戦争を開始したが、結果は逆になった。それはなぜか。
まず大前提として押さえておくべきことは、原油市場には石油会社、取引業者、武装勢力、投機家などさまざまなプレーヤーが存在し、特定の国やグループが制御しようとしてもうまくいかないという構造である。ビリヤードで白球を突いて黒球を指定ポケットに入れようとして、ほかに入れてしまうことがあるがこれと同じだ。
そのうえで最大の理由を挙げれば、やはりそれは需給関係の変化だろう。
まず供給面では、産油国における埋蔵量と新規生産投資の減少が大きく影響した。昨年、世界の生産量は日量100万バレル減少した。
たとえば、ベネズエラは、原油で儲けた資金を、食料供給、教育、福祉などに回している。チャベス大統領は2003年1月、ストを行なった石油労働者を大量に解雇し、その結果、生産体制が縮小して産油量が減った。しかし政府は何のダメージも受けず、価格高騰でかえって利益を増やした。
供給が減る一方、中国やインドなど新興国で需要は増大している。特に中国ではガソリン税を低くしていることもあり、クルマのユーザーがすごい勢いで増えている。
また、産油国では、ガソリンが安いために需要が伸びる。米国では1ガロン=4ドルだが、ベネズエラは9セント(44分の1)、イランは30セントだ。イランは抑圧された国だが、人びとはクルマを運転しているときだけは自由で楽しそうだ。