海外で思うことが伝わらないときは
切り口を変えてまた伝えに行く

桜井 こうした酒器は海外にも同じものを展開しているのですか。

能作 最初は海外にも日本製の商品を持ち込んだのですが、響きませんでした。消費材である以上、国や文化に合わせて作らないとダメですね。シャンパングラスも、日本で売っているものより30〜40ccは多めに入らないと、外国人には小さすぎる。箸置きなら韓国でも売れるかと思ったら、全然売れない。彼らは箸とスプーンを一緒に置くので、日本の倍の長さが必要だと後から分かりました。欧州では去年から、フランス人デザイナーにデザインしてもらって「シルビーライン」と名付けたを業務用食器を展開していて、これは受けていますね。

桜井 相手の文化に尊敬がないと、おそらく売れないですよね。

能作 本当ですね。それと、日本人に足りないのは、伝え方と自信だと思います。モノ造りそのものについては、海外展開するようになって、やはり日本が世界一だと自信を深めています。ただし、海外の人は、白か黒かはっきり言うところ、日本人はグレーと答える曖昧さがあって伝わらない。そして、それほど威張れる程じゃないモノでも海外の人なら「どうだ!すごいだろ!」と言うのに対して、日本人は自信作ですら「大したものじゃないですけど…」と言って差し出します。これは、欧米の世界で通用しない。桜井社長は、そういう欧米式の伝え方も実践されていますよね。

海外事業はストレスの元凶そのものだが<br />伝統から革新につながる何かが生まれる日本人に足りないのは伝え方と自信、という能作社長

桜井 やらなきゃいけないことだと思ってやってます。

 伝え方でいうと、たとえば「革新して変わっていくことも、日本酒や旭酒造の伝統だ」というポリシーは、いかにも海外の人が神秘的で素晴らしいと感じる伝統のイメージとかけ離れているために、ことさら強調しないほうがいい、と欧米で忠告を受けることがありました。じゃあ伝えるのは諦めて、その国の価値観でいくというのも本末転倒なので、そういうときは切り口を変えてまた伝えにいくしかないですよね。

 たとえば、アメリカのアップルがiPhone作ったら、フランス人も大勢が買いました。だから、フランス人も変わることに完ぺきな拒否感があるわけじゃない。だから、それを感じさせてあげられる伝え方を追求していきます。

能作 確かにそうですよね。海外って本当に難しい。

桜井 おそらく能作さんが感じておられるのと同じように、私たちも相当勉強させてもらっています。私のストレスの素の8割は海外ですよ。なんでそうなるんだ?!と(笑)。でも、この8割のストレスが大事で、これが新しいものを生み出していくんだろうと思います。

能作 私も、続ければ絶対に成功するので、必ず続けることを信念としています。国内もそうでしたから、海外も同じく、今は売上高の数%にすぎませんが成功するまで続けようと思っています。