素材のよさとデザインがそろえば
伝統産業が現代に大きく羽ばたける

能作 僕も入社当初は問屋さんに素材を提供する立場なので、まずは高岡で一番の職人になろうと思って励んでいました。でも、下請けだとお客様との接点がないから、結局どんな色になってどういう風に売られているのか、全然わからない。それで、だんだんお客様の顔を見たいという気持ちが強くなっていきました。

 たまたま2001年に声をかけてもらって参加した東京の展覧会で、真鍮製の卓上ベルをデザインして置いたんです。あえて色をつけず、生地表面の美しさを見せることで技術力をアピールしました。すると大手雑貨販売店が「ぜひ置かせてほしい」と声をかけてくれた。僕にしてみれば、初めてユーザーに近いところに商品が入ったから、ひょっとして続けて開発できるんじゃないか、とめちゃくちゃ嬉しかったんです。

 でも、全然売れなかった。

桜井 そりゃあ、これ鳴らして妻を呼んだら、茶碗が飛んできそう(笑)。

能作 まさしく、そうなんです(笑)。ただし、販売員さんが「音はきれいだし、風鈴にしたらどうですか」とアイデアをくれたので、風鈴にした途端に3000個を売るヒットになりました。素材の良さと、時代を反映するデザインの両方がそろえばいける、と確信しましたね。

桜井博志・旭酒造社長
(撮影:住友一俊)

 それからは、営業部隊は持たずに、展示会で見せてほしいという人がいると、高岡の問屋さんと付き合いがないことを最初に確認して、直接取引を増やして行きました。しかし、意外にも高岡の問屋さんと付き合いのある取引先が非常に少なくて、順調に販路を拡大できたんです。伝統産業って作っているものも古いけど、流通も古かったんだ、と遅まきながら気づきました。

桜井 なるほど。自前で営業を持たなかったから逆に良かったんですね。営業部隊がいたら、それが障壁になったかもしれない。日本の大手酒蔵はそれで苦労してます。お身内からも最初は反対が多かったのでは?

能作 もちろんです。まず技術的な面からして、こうやると鋳物がきれいになると言っても、「昔からのやり方と違うからおかしい。隣の家も、あそこの家もこうやってる」と反対されます。実績を積むことで、少しずつ言われなくなりました。

 実は我が家は女系でして、父も私も婿なんです。桜井社長のご著書で父子関係の難しさが書かれていましたが、婿は婿で大変でして(笑)。

桜井 確かに、婿さん同士だと「俺は思ってないけど家を守るため…」というのが免罪符になりますね(笑)。

能作 なんと僕の子も娘3人で、先日、婿をもらった長女に生まれたのも女の子でした。

桜井 商家の繁盛する秘訣じゃないですか。これで四代安泰だ。