「職人が3K」というのは過去の話
一流大学卒の希望者が県内外から増加

桜井 いま鋳物職人さんは何人ぐらいいらっしゃるのですか?

能作 現場に50人ぐらいいて、県外出身者も多いので、違った文化が集まって発想力が豊かになっていると感じます。私がかつて現場で作業していたところ、見学者が連れてきた子どもに対して「勉強しないと、こんな仕事に就くしかなくなるのよ」と言うのが聞こえてきた経験がありますが(苦笑)、今や鋳物師も3K(キツイ・汚い・危険)などと言われた時代は去って、一流大学卒でも職人になりたいという希望者が大勢くるのは嬉しいですね。ただ、彼らを育成するといっても、自分自身が理解しないと何もできるようにならないので、ある意味ほったらかしにしてます。

桜井 うちも同じです。昔はいい人材がなかなか集まりませんでした。

能作 先ほどの話じゃありませんが、地域の見方も変わってくれたらと願って、年間2000〜2500人の子どもの見学を受け入れています。伝統産業は衰退してなくなる、と地元の人が言うのを聞いて子どもも育ってますから、私が「これから世界に打って出るんだ、銅合金ができる鋳物屋さんは高岡にしか残っていない、将来は明るいよ」とアピールすると、子どもが家に帰って「全然違ってたよ」と宣伝マンになってくれます。堂々と出身地が言えるようになってほしいですよね。

桜井 国籍と同じように、「県籍」ってありますね。

能作 「県籍」っていい言葉ですね。今度から「うちは、富山県に県籍がある」って使わせてもらいます(笑)。桜井社長は現場の人材教育では、どのような点に留意されてますか。

桜井 特に新入社員を見ていて、学校にスポイルされて来てるんだなあと感じるんですよ。だから、彼らには必ず3つのことを言います。

 第1に、この社会はカンニングありだから、分からなかったら調べたり、どうしても100メートル競走で勝ちたいなら前日に10メートル先に行く準備をしておくこと。第2に、敗者復活戦は必ずあるから、まだまだ取り戻せるということ。第3に、体育会系の子も多いので、スポーツでは反則スレスレのプレーがあるけど、一般社会で法律に触れないギリギリならいい、というのは許されないし、旭酒造では受け入れられないから改めろ、ということ。入社を機に、新たな気持ちでやる気になってもらいたいと思っています。

能作 後継者はどうされるんですか?

桜井 私の息子(副社長)がいます。これも、ほったらかしですね(笑)、経営者は育てられないと思っているので。社員ですら育てられないのに。

能作 うちは、長女と3女の夫が入社しているんです。是が非でも血族で継ごうとは思いませんが、企業の顔は創業家がいいのかなとも…今は僕が「顔」ですが、次をどうすべきか悩ましいです。

桜井 血族で継いでいいのは、最後のギリギリの危機のとき、逃げられないことですよね。赤の他人なら逃げるという選択肢がありますけど、最後の最後まで血族にそれは許されないという力が強く働くと思うんです。それに、後を継がなきゃいけないと思って勉強しますからね。…という話に、すがりついています(笑)。

能作 いや、本当に大変です。今日はありがとうございました! 桜井社長のアイデアを素に商品開発しますので、今後もぜひ色々お寄せください(笑)

桜井 海外向けに、四合瓶分を移し替えられる大きめの片口はどうかなあ…また思いついたら連絡します。でも、能作社長が何も仕事を入れずに海外で2週間ぐらい過ごされたら、よいインスピレーションを得られそうだな。こちらこそ今日は有難うございました!


<新刊書籍のご案内>

『 逆境経営 』

カネなし!技術なし!市場なし!
山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法

つぶれかけた酒蔵を立て直し、世界約20ヵ国に展開するに至った、熱いスピリットと“七転び八起き”な合理的思考法をまとめた1冊です。カネも技術も市場も持たない山奥の小さな酒蔵が自己変革してきた間の「ピンチをチャンスに」変える発想は、酒造り以外にも活きるエッセンスが満載です!

ご購入はこちらから![Amazon.co.jp] [紀伊國屋BookWeb] [楽天Books]