これを見てまず浮かぶ疑問は、なぜ自衛隊が「戦力」ではないのか、ということでしょう。多くの憲法学者やいわゆる55年体制下の野党は、9条は、自衛隊を含め一切の軍事的組織の保有を禁止しているとして、自衛隊違憲論を展開してきました。しかし政府は、憲法には国民の基本的人権を保障した第三章があることに照らしても、9条は、万一わが国が外国からの武力攻撃を受けたときに、国家が手をこまねいて傍観していることまでを求めているものではなく、このような有事に、国民を守るためにこれを実力で阻止し、排除することは禁止していないと解釈してきました。

 このことを前提として、そのための必要最小限度の実力組織である自衛隊は、9条第2項が禁止する「戦力」には当たらないとしてきたのです。つまり、自衛隊は、有事に備えての専守防衛の組織であるからこそ「戦力」ではないのですから、このことといわば裏表の関係として、他の国の軍隊のように自国が攻撃を受けてもいないのに海外に出かけて行って戦争をする、すなわち集団的自衛権を行使することは許されないとしてきたわけです。

 前述したように、今ではアメリカなど外国の軍隊も、集団的自衛権を行使する場合以外には勝手に海外で武力行使することは許されません。ですから、もし日本も集団的自衛権の行使ができる、自衛隊が海外で武力行使ができるということだと、自衛隊は外国の軍隊と何も違わない「陸海空軍その他の戦力」そのものになってしまうわけです。

 同じ理由で政府は、わが国が、国連安保理の決議に基づいていわゆる集団的安全保障措置に参加し、多国籍軍の一員として、平和に対する脅威を与えている国に実力行使をすることも、9条の下では許されないとしてきました。このため、1990年にイラク制裁のために展開した湾岸多国籍軍にも加わりませんでした。

自衛隊による国際貢献と9条

 湾岸戦争を契機として、日本にも自衛隊による国際貢献を求める声が大きくなりました。こうした要請に応じて、自衛隊を海外に派遣するために作られた法律が国連平和維持活動協力法、いわゆるPKO法です。その後さらに、いわゆる周辺事態に際して、軍事行動を採る米軍に対する自衛隊の協力を効果的に行うことを目的として、周辺事態安全確保法が制定されました。

 しかし、これらの法律では、すべて自衛隊の活動が「武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」旨を明記するとともに、PKO法の場合にはいわゆるPKO5原則を設け、周辺事態安全確保法においては、自衛隊の活動範囲を後方地域に限るなど、武力の行使に及ばないことを担保するための具体的な枠組みを設けてきたのです。自衛隊によるインド洋での洋上給油活動やイラクにおける人道復興支援活動も、同様の枠組みの下に、武力行使にならないことを確保した上で実施したものです。