厚生労働省の統計が証明している

 これは机上の空論ではありません。現実にこうなっているのです。厚生労働省が発表している統計(平成25年版賃金事情等総合調査)にそれが表れています。これは、基本給の金額を決めている要素です。基本給全体を100としたとき、それぞれの要素がどのくらい考慮されるかを表しています。

1. 年齢・勤続給……14.4%
2. 職務・能力給……31.3%
3. 業績・成果給……4.9%
4. 総合判断……49.4%

 業績・成果給が4.9%しかありませんね。これが実態です。たとえば、自分の月収を想像してください。月収40万円だとしましょう。この厚生労働省のデータから考えると、同期の中で、一番優秀な人は月収42万円(プラス5%)、一番成果が上がらない人は、月収38万円(マイナス5%)となります。これはかなり肌感覚と合っており、納得できるのではないでしょうか?

給料でいう「能力」とはスキルではなく、
社会人としての基礎のこと

「業績・成果給は4.9%だが、その上の『職務・能力給』が31.3%もある。やはり労働者の能力(使用価値)が問われているのでは?」と感じるかもしれませんね。

 ですがそれは、言葉の意味を誤解しているだけです。「職務・能力給」とは、労働者が上げた成果ではなく、社会人としての基礎的な経験と、社会人としての基本業務をこなす能力を指しています。

 たとえば、仕事をするうえで必要な礼儀、言葉づかいからスケジュール調整能力、段取り力、説得・プレゼン力、その他社会人として必要な知識や基本となる経験を「能力」と定義し、それに応じてお金を払っているということなのです。

 そして、その基礎的な経験や社会人としての基本業務をこなす能力は、「社会人歴に比例して身につく」と考えられています。このような能力は仕事を通じて、経験を通じて蓄積されていきます。通常、経験を積めば積むほど増えていきます。そして、具体的な仕事内容が変わっても減るものではありません。

 たとえば、社会人10年目の人が、完全に未経験の業界に転職したとします。4月1日に学校を卒業したての新入社員と同時に入社しました。その業界のことをまったく知らないという意味では、新卒1年目も、
10年目のみなさんも同じです。

 しかし、みなさんの方が圧倒的に仕事ができるでしょう。なぜか? 仕事のやり方がわかっているからです。10年の経験を積み重ねているので社会人としてのベースの力があるため、新入社員と違うのです。

 これが「職能給」に反映されている「能力」なのです。これは先ほどからお伝えしている「労働力の価値」に他なりません。みなさんと同じレベルの“地力”を身につけるためには、社会人として10年の経験が必要です。それが給料の金額を決める大きな要素になっているのです。

※この記事は、書籍『超入門 資本論』の原稿を一部加筆・修正して掲載しています。


著者プロフィール

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木暮太一(こぐれ・たいち)
経済入門書作家、経済ジャーナリスト。ベストセラー『カイジ「命より重い!」お金の話』『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』『新版 今までで一番やさしい経済の教科書』など著書多数。慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。学生時代から難しいことを簡単に説明することに定評があり、大学時代に自主制作した経済学の解説本「T . K論」が学内で爆発的にヒット。現在も経済学部の必読書としてロングセラーに。相手の目線に立った話し方・伝え方が、「実務経験者ならでは」と各方面から高評を博し、現在では、企業・大学・団体向けに多くの講演活動を行っている。


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