なぜ医者の給料は高いのか?
労働力の価値には、その仕事をするのに必要なスキルを身につける労力も含めて考えられていると説明しました。ということは、そのスキルを身につける労力が大きい仕事は、労働力の価値が高くなり、よって給料が高くなるのです。
たとえば、医者の時給はだいたい1万円といわれます。一方、一般企業では時給1000~3000円です。
なぜ、医者の時給は高いのか? それを「医者の仕事の方が、一般的な仕事よりも難しいから」「人が生きていくための重要な仕事しているから」と考えてはいけません。
実際に医者の仕事は大変ですし、難しい業務だと思います。内科、皮膚科、小児科、眼科、どれをとっても人が健康に生きていくための重大な仕事です。
しかし、「高度だから、重大な仕事だから給料が高い」のではありません。もし「難しい仕事」にお金が支払われるのであれば、サーカスの団員はもっと高給取りであっていいはずです。「人が生きていくための重大な仕事」に高いお金が払われるのであれば、介護士の給料も同程度に高くなるはずです。
しかし厚生労働省の統計(2012年)では、医者の平均月給が約88万円なのに対し、介護士は約21万円です。介護士も同じように「人が生きていくために必要な仕事」です。でも給料が大きく違うのです。
医者の給料が高いのは、医者の仕事をこなすために、膨大な知識を身につけなければならず、そのために長期間準備をしてきたからなのです。医者になるまでの準備が大変で、みんながそれを理解しています。だから給料が高いのです。
介護士は非常に重労働で、社会的意義も高い仕事です。しかし、介護士になるための準備は、医者になるための準備よりも少なくて済みます。この差が給料の差になっているのです。
逆に、誰にでも簡単に始められる仕事は、「身につけるべきスキル」がないので、その分給料が安くなります。いくら頑張っても、いくら成果を上げても、「また明日同じ仕事を簡単にできてしまう」のであれば、当然、必要経費は少なくなります。
そう考えると、単純作業者の時給が少ないのは「必然」だといえます。「体力的にキツい」とか「毎日長時間労働」とかは関係がないのです。その「労働力」をつくるための原材料費が少ないため、給料が少ないのです。