――1990年代にデビューしていたら、作家人生がかなり違ったかもしれませんね。
真山 もっと苦労したと思います。1990年代は国内外を問わず、エンタメ小説の金字塔が次々と出てきましたから。80年代もすごいですが、エンターテインメントと社会的要素の融合という意味では、90年代に活躍した作家はキラ星の如くだった。もう席は全部埋まっている感じ。その中で勝ち抜いていくのはしんどかったと思います。私のようなタイプの作家が出てくるのは、2000年代の方がよかったんじゃないでしょうか。
本をつくる側に
真のプロがいなくなった
――今振り返ると、2000年あたりを境目に、エンタテインメント文芸の世界に「断層」ができたような気がしています。作家のタイプも、内容も大きく変りました。
真山 そうですね。そう思います。
――出版ビジネス的にも、それまでの売れ筋とかセオリーが2000年代には通用しなくなってしまった。出版市場は1996年をピークに縮小し続けているという厳しい現実もあります。要するに、本が売れない時代。それでも恵まれていると?
真山 自分と社会との関係で言うと「いい時代」ですが、ものを書く環境としては「最悪」でしょうね。
理想を言えば、今みたいな仕事の仕方ではなく、1年1作のペースにしたい。『コラプティオ』の時に強くそう思ったんですが、私は単行本を出す時、連載時の原稿を何度も何度も読み返して、切り刻むくらいに加筆修正しているんですね。手を入れれば入れるほど良くなっている自負はあります。
連載の時は、粗くても、とりあえず入れたい要素を全部ぶち込むんです。連載が終わった後に、読み返して、「何が言いたいのか」という道をまっすぐ作っていく作業をします。その段階で、小説に背骨が通って、登場人物のブレや不要なシーンが整理されていく。これはもう、半ば新しく小説を書き下ろすようなものですから、限られたスケジュールの中では、ギリギリの体力勝負になります。1冊出すたびにへとへとになる。こんなこと、あと何年も続けられるとは思えないし、作品にとってもよいことではないです。
もっと時間をかけて1作1作に集中できる環境が、のどから手が出るほど欲しいです。でも、そんなことができる作家は、いま日本で何人もいないでしょう。仕方のないことなんですが、先ほど言ったように、テーマ的には恵まれていますが、環境としては最悪です。新作を出しても達成感なんて全然ないんですよ。