30人いる幹部社員は、
なぜ、だれ一人、会社を辞めなかったのか?
小山 1ヵ月で、本社機能(臨時本部)、臨時工場(2ヵ所)、販売展示場(2ヵ所)を立ち上げたのは、立派だと思いますね。避難勧告が解けてから、シマ商会がすぐに原状回復できたのは、被災する前から、朝一番の掃除(以下、環境整備)を徹底していたからです。環境整備に取り組むと、社員の価値観がそろいます。不要品を捨てたり、物の向きをそろえることによって、人の心や考え方がそろっていく。だから、不測の事態が起きたときでも、社員の心を一つにできます。
島 放射能や余震という目に見えない恐怖にさらされながら、それでも、30人いる幹部社員は、だれ一人会社を辞めなかったんです。
……一人も、ですか?
島 はい。小山さんがおっしゃるように、環境整備によって、私と長と社員の間に「結束」ができていたのでしょう。社長も、社員も、時間と場所を共有して、一緒に学んできました。だから私たちは、心を一つにできたんです。避難勧告が解除され、本社工場での操業再開のメドが立ったので南相馬に戻ると、電柱が倒れていたり、フェンスが崩れていたり、震災の爪痕が残っていました。
このとき、現場で陣頭指揮を取ったのは、「環境整備」を始めたときに、最も反対していた社員です。「ふざけんな、環境整備なんか、やってられるかよ!」とやる気を見せなかった社員が、現場をまとめたんです。わずか1週間で働ける環境に戻ることができたのは、彼の力が大きかったですね。