借金返済のために書き続けた論文

 シュンペーターは1925年10月から1932年6月までボン大学で多くの学生を教えた。42歳から49歳である。経済学者としてオリジナルな経済発展論を20代で打ちたて、30代で財務大臣と銀行経営者を経験した。政治家、実務家として成功したとは言えないものの、多彩な経験を積んだわけだ。そして働き盛りの40代、優秀な学生たちを指導しつつ、多くの論文を次から次へと発表していった。

 とりわけ盟友グスタフ・シュトルパーが創刊した経済週刊誌 Der deutsche Volkswirt(「ドイチェ・エコノミスト」)に多数の論文を寄稿している。シュトルパーは1926年初頭、創刊するにあたってシュンペーターに定期的な寄稿を依頼し、シュンペーターは貴族的生活を維持して借金を返すためにも書き続けたのである。

 三重大学名誉教授の米川紀生先生がまとめた資料から計算すると、ボン大学教授在職期間中の7年間(1925-1932年)に寄稿した論文(講演録を含む)は62本あるが、そのうち19本、30%以上がシュトルパーの要請によるものだと思われる(★注1)。すなわち、シュトルパーが編集していたBerliner Borsen-Courier とDer deutsche Volkswirtに掲載されたものだ。

 この19本は以下のとおり。和訳したタイトルと掲載紙誌・日付のみ記す。

①「補助金政策」Berliner Borsen-Courier 1926.2.21
②「景気探求」Berliner Borsen-Courier 1926.4.4

【この間半年、中断】

③「主導力と国家の未来」Der deutsche Volkswirt 1926.10.1

【半年、中断】

④「財政政策」Der deutsche Volkswirt 1927.4.1
⑤「財政政策と内閣制度」Der deutsche Volkswirt 1927.4.8
⑥「失業」Der deutsche Volkswirt 1927.5.11
⑦「財政運営の精神と技術」Der deutsche Volkswirt 1927.5.13
⑧「自治体間財政調整論」Der deutsche Volkswirt 1927.6.3

【1年半、中断】ハーバード大学客員教授

⑨「相続税」Der deutsche Volkswirt 1928.10.26
⑩「だれが売上税を把握しているか?」Der deutsche Volkswirt 1928.11.16
⑪「賃金政策の限界」Der deutsche Volkswirt 1929.5.28
⑫「賃金政策と学問」Der deutsche Volkswirt 1929.5.28
⑬「財政改革はできるか?」Der deutsche Volkswirt 1929.10.18
⑭「所得税の経済・社会学」Der deutsche Volkswirt 1929.12.20
⑮「世界経済の変化」Der deutsche Volkswirt 1930.9.19
⑯「財政改革が失敗するとき」Der deutsche Volkswirt 1930.2.28