司会 この作品は週刊文春で連載されたものがベースとなっていますね。もっとも、連載終了時点のものをそのまま単行本にすると全部で600ページを超えていました。単行本化に当たっては、それを大幅に削ったうえでさらに加筆して、最終的に368ページに収めました。膨大な取材を行い、登場人物も多数に及んでいたわけですから、大変な苦労があったことと思います。その作業の中で、見えてきたものは何ですか?
真山 小説を書くうえでのポリシーとして、本の真ん中についている「しおりヒモ(スピン)」を使うことなく一気に読破してもらえるような内容に仕上げる、ということがあります。もちろん、だからといって勢いだけで書いてしまうと、途中で読者がついていけなくて迷子になりかねない。削っていくうえでは、その点に最も気を遣いましたね。
もともと私は、「宇宙開発なんて税金のムダ遣いだ」と思っていました。宇宙に行くことだけが目的化しているように感じられていたからです。ところが、取材を進めていくうちに、驚くべき事実がいくつも見つかりました。私は知っているつもりになっていただけで、宇宙に関しては知らないことだらけだったんです。
本来、取材をたくさんこなすことはムダをそぎ落とすことにつながりますが、あまりにも読者に伝えたいことが多かったので、連載時にはちょっと詰め込みすぎた面もありました。通して読んでみると、このままではページをめくる手が止まってしまうところが多いと気づきました。だから、思い切って削ってしまったエピソードもありますし、単行本版では存在しなくなった登場人物もいます。
とはいえ、文章を削っても、行間に込められているメッセージまでは消えないよう気をつけました。結果として、過剰に説明するよりムダをそぎ落とすことで、逆に行間が生きてきたように感じます。
連載中に読んでいた読者の方も、どこかが減ってしまっているという印象よりも、読みやすくなったと感じてくださっているようです。
検察OB(ヤメ検)を徹底取材し、
主人公像を創り上げていった
司会 真山さんが(ゲラに修正箇所の)赤字を入れるたびに、難しい専門用語がどんどんかみ砕かれていったのがとても印象的でした。それにしても、当時の検察は強烈な逆風にさらされていただけに、さぞかし取材も大変だったことでしょう。
真山 ええ。特に現役の検事は、絶対に会ってくれませんでしたね。編集担当の薦田さんがアポイントを取ってくれたのですが、かなり苦労していました。
薦田 媒体が「週刊文春」ですから、なおさらですよね(笑)。
真山 主な取材対象は、検察OBになりました。検察を止めて弁護士に転じた人たち、いわゆる「ヤメ検」です。名簿を片手に、薦田さんが営業マンのように電話を掛けまくったのですが、なかなかOKがもらえませんでした。別に村木さんの一件に関する真相を突き詰めようとしているわけではないことを懸命に訴えて、「こういった場合にはどのように考えるのか?」という検事としての思考について教えてほしいとお願いしました。