司会 驚くべきことに、その日本が誇るロケットの技術は別の用途にも利用できるそうですね。

真山 日本では固体燃料ロケットは飛翔体と呼ばれていますが、他国はミサイルとみなしているのです。なぜなら、大陸間弾道ミサイルとしても使用できるからです。さらに、青森県の六ヶ所村には長崎に落とされた原爆の8000発分に相当する大量のプルトニウムが保管されており、核弾頭をつくる技術も装置もあります。しかも、日本の制御技術は極めて正確。鹿児島から打ち上げて、ブラジルの空を舞っている蝶に命中させることが可能なのです。

 だからこそ、世界は日本のことを密かに脅威に感じている。日米関係にしても、こうしたことを踏まえたうえで微妙なバランスのうえに成り立っていることは知っておく必要があります。しかし現状、日本が宇宙関連にかけられるお金は非常に限られている一方で、NASAの研究開発予算は削られたとはいえ1兆円にのぼりますし、国防総省がさらに1兆円を出してくれます。

 そのうえ、米国は民間企業に軍事を託そうとしているのです。たとえば、グーグルは東大OBが興したヒト型ロボットの開発会社を買収しました。ロボットといえば、とかく日本人は介護や医療の現場への活用を連想しがちでしょう。しかし、グーグルは位置情報とともにこうしたロボット技術を用いて、軍事の領域に参入しようとしているわけです。

 もはや、「私たちには憲法9条があるから……」では済まされない状況と言えるでしょう。もちろん、戦争を容認しているわけでも、軍需新興を掲げているわけでもありません。ただ現実として米国への抑止力にもつながっている日本の宇宙開発は、もはや防衛省の支援なくして前に進みません。軍需につながるからと杓子定規にいつまでもタブー視するのはいかがなものでしょうか?

司会 もうひとりの主人公である八反田遙は、宇宙開発の最前線で活躍している若き女性研究者ですね。彼女のキャラクターを作り込んでいくうえでは、やはり実際に現場の研究者たちを取材したのですか?

真山 ええ。10人ぐらいの若い優秀な研究者たちに会いました。彼らはスゴいですよ。宇宙戦艦ヤマトに出てきたワープ航法を最初に実現するのだと本気で思っている人物もいましたから。理論的にはすべて実現可能で、あとは試すだけだとか。それに、みな非常に計算が速い。宇宙って、テストすることが不可能ですよね。だから、失敗を防ぐために、徹底的に計算を繰り返すわけです。だから、彼らは取材中にも、とんでもなく複雑な計算をスラスラと暗算していました。ただ、他国と比べて、日本は高い技術に対する投資があまりにも不十分。こうした若い人たちがとことん研究できる場をきちんと整えてあげるべきですね。