内臓脂肪シミュレーション技術を実装した画面例。画面左側が現在の画像、下のスライドバーで目標とする体重を入力すると、体重変化量に応じて画面右側の画像が変化し、目標達成時の内臓脂肪蓄積度合いが表示される。 |
新たな国民病として、ここ数年、にわかに注目を集めている「メタボリックシンドローム」(内臓脂肪症候群)。「メタボ」という言葉は、働き盛りのビジネスパーソンの間にもすっかり定着した感がある。読者の中にも、この言葉を聞くたびに何らかの感慨が湧いてくる人も少ないないだろう。
厚生労働省発表によると、メタボリックシンドロームの該当者は、40~74歳の男性の2人に1人、女性の5人に1人といわれ、ビジネスの市場としては、その規模2千万人にも上るとも推定されている。予防を目的とした健康診断・特定保健指導(メタボ検診)がスタートした2008年は、まさに「メタボビジネス元年」。さまざまな業種の企業が同ビジネスへ参入し始めている。
そんな中、日立製作所が、メタボ検診を支援する内臓脂肪シミュレーション技術を発表した。75000例もの検診データーから、体重、胸囲、内蔵脂肪面積の関係を分析し、体重、胸囲から脂肪面積を推定するアルゴリズムを開発。さらにはX線CTの撮影画像から腹囲周辺の構造を分析し、内臓脂肪と筋骨格構造を模式化し擬似断層画像として表示することを可能にした。すなわち、体重と胸囲を入力すると、X線CTで撮影された画像に近い形で推定された内臓脂肪の蓄積度合いを画面上で確認できるというわけだ。
さらに、この技術の優れた点は、減量後の体重=目標体重を入力すると、画面が変化し、目標達成時の内蔵脂肪の蓄積度合いが表示されること。いわば、メタボ対策への取り組みの「結果」が可視化できるという点にある。
「メタボ検診」は、ご周知のように、検診と保健指導のセットであり、初回面談時にX線CTで撮影した現在の内臓脂肪の蓄積度合いを示し、保健指導を行う方法が効果的と言われている。さらに、この新技術の導入により眼に見える形で「目標」を提示されることで、対象者のモチベーション喚起のために役立つと期待できるのだ。
言うまでもなく、メタボ対策は、生活習慣の改善という、きわめて地道な、かつ継続的なセルフコントロールが鍵。「わかっちゃいるけど…」という思いは、多くの人に共通のはずだ。地道なセルフコントロールを成功させるためには、動機付けは強ければ強いほどよく、「目標」は明確であればあるほどよい。
もちろん、メタボ対策に取り組む人にとって、「体重数値」という目標はあるにはある。だが、減量が病気リスクの軽減に繋がるという点においては、曖昧な動機付けにとどまっている部分もあるだろう。この部分の動機付けを確固たるものにする秘策のひとつが、この技術というわけだ。
同技術の一部は、東京慈恵会医科大学附属病院新橋健診センターの協力を得て開発されており、おそらく、まずは、医療・保健現場での保健指導の成果を上げるための活用が模索されているのだろう。だが、メタボ対策に取り組む者としては、大切なのは、「日常」。X線CTといった大掛かりな医療機器を必要とせず、「成果」が簡単に可視化できる技術だけに、モバイル技術などとの抱き合わせによって、日常で使える自己検診の技術として応用されることを期待したい。
(梅村千恵)