現在所属するアリックスパートナーズには07年に参画し、今は日本共同代表を務めています。同社は、企業再生のコンサルティングを得意分野としており、私も国内の企業の業務改善、事業ポートフォリオのリストラや人員削減など、会社の立て直しを支援するプロジェクトに数多く関わってきました。また、年々増えているのが、日本企業の海外進出のお手伝いです。買収先を探すところからはじまり、デューデリジェンス(対象企業の価値評価やリスク特定のための調査)や事業統合のサポートなどをしています。

――著書『プロフェッショナル・リーダー』では、日ごろ野田さんが取り組んでいる「企業再生」「買収・事業統合」「リストラクチャリング」のストーリーを軸に、それらの場面で発揮すべき「リーダーシップ」のあり方を主題としています。なぜ初の単著でリーダーシップを取り上げたのですか?

業績不振企業の立て直しをするときには、やるべきことはだいたい決まっています。抜本的なコスト改善、不振事業からの撤退、マネジメントの交代などです。しかし、多くの企業では、やるべきことがわかっているのに、実行できない。なぜなら、実行を阻むいくつかの障害があるからです。

有事に対応できる現場のリーダーが<br />日本企業に不足しているT. USAMI

障害のひとつは、社内のしがらみです。たとえば、家電メーカーが赤字を抱えるテレビ事業からの撤退を検討していたとします。改善の見込みがなければ、撤退するのが正しい判断です。しかし、社内からは「テレビ事業をやらずして、家電メーカーといえるのか」と反対の声が上がったり、あるいはOBなどから「われわれの出自たるテレビ事業を手放してもいいのか」と横やりが入ったりする。結果、赤字事業をズルズルと継続して、経営をさらに逼迫させてしまうのです。

もうひとつの障害は、自分の中にあり、それは過去の成功体験です。「昔はこの方法で上手くいったから、今回も上手くいくはずだ」という経験則に基づく意思決定は、間違いではないのですが、企業を取り巻く事業環境がめまぐるしく変化する昨今にあってはマイナスに働くこともあります。成功体験を積み上げて自信にすることは大切です。しかし、それに囚われすぎると、変わらなければならないときに「今までのままでいい」と変化を妨げる判断をしてしまうのです。