せずにはいられないこと。
それが自分のすべき仕事

古賀史健(こが・ふみたけ)
ライター/編集者。1973年福岡生まれ。1998年出版社勤務を経てフリーに。現在、株式会社バトンズ代表。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。臨場感とリズム感あふれるインタビュー原稿にも定評があり、インタビュー集『16歳の教科書』シリーズ(講談社)は累計70万部を突破。20代の終わりに『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで『嫌われる勇気』の企画を実現。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』(星海社)がある。

古賀 ああ、でもこの評価にまつわる話はぼくも聞きたいですね。岸見先生もアドラーの研究者として、まわりに評価される時期ばかりでは当然なかったと思うんですけど……。

岸見 というか、評価されない時期ばかりですよ(笑)。

古賀 アドラーの著作の翻訳なども、大変ですよね。評価されずに、それをずっと続けられた理由って何なんですか?

岸見 それは、やっぱりアドラーが好きだからですね。翻訳を始めるときには、「アドラー先生、今日もよろしくお願いします」とあいさつするところから始めるんです。「僕にまかせてください、先生の言葉をちゃんと日本語に訳しますから」という気持ちが、モチベーションになっていました。アドラーの考えをみんなが知らないのはあまりにもったいない、とも思っていました。

片桐 はー、内発的な動機だけで続けてこられたんですね。

岸見 ドイツの詩人・リルケの『若き詩人への手紙』のことを、いつも思い出していましたね。リルケのもとに若い詩人が詩を送りつけて、評価してほしいと書いたのです。でも、リルケはそれを拒んだ。その代わり、自分の胸に、書かずにいられないかどうか、書くことをやめたら死ななければならないかどうか、聞いてみてくださいと返したのです。それに対して、「ヤー(イエス)」という答えが出せるのなら、詩を書きなさいと。これは、ぼくに当てはめると、翻訳せざるをえないかどうかということですよね。そうじゃなかったら、この仕事をしてはいけないと言い聞かせながら、もう20年近くやっています。