お笑いもアートも
すべてが“片桐仁業”
片桐 ぼくもけっきょく美術の道をやめて、お笑いの道に進んだんですけど、ラーメンズとしてテレビに出るようになったら、雑誌で1ページなんでも好きに使っていいという連載のお仕事がきました。相方に「お前、粘土で立体作品やりなよ。大学のとき好きだったじゃん」と言われて、粘土で作品をつくって載せ始めたんです。ここでまたアートとの接点ができました。そうしたら、やっぱりそこで名を売りたい欲が出てきちゃうんですよね(笑)。
古賀 作品でも評価されたい、と(笑)。
片桐 でも、これはお笑い芸人として売れたことによって得た発表の場ですよね。そこからアート方面に行こうとすると横入りみたいになるかな、なんて思ったりして。なんだか思い切れないまま、15年以上ずっとつくり続けています。でも最近は「芸人だからとか、アートだからというジャンル分けって、もしやおれしか気にしてないんじゃないのか……?」と気づいたんです(笑)。
岸見 そうかもしれませんね(笑)。
片桐 アートだろうが芸能だろうが、関係者がいて、それを見てくれる人がいたら、全部が“片桐仁業”なんですよね。片桐仁業をまっとうするためには、ジャンルにこだわるのはナンセンスだなと。
岸見 お笑い芸人さんがアートをやるのも、オッケーだと思いますよ。それをもとに、片桐さんという人を伝えられるわけですから。その話を聞いて思い出したのですが、あるとき研究者としての活動だけだと、たくさんの人にアドラーのことを届けられないと気づいたのです。研究者というジャンルをはみ出さないようにすると、年に数本論文を書いて、同じ研究をしている人に対して講義やシンポジウムをするだけになる。それじゃあ、広がっていかないわけです。
片桐 そうですよね。アートも、アートだけやっていると誰にも知られなかったんじゃないかと思います。
岸見 入るきっかけが何かというのは、全然関係ないですよね。
片桐 そう、それは他の人には関係ない。どう思われるかなんて、気にしなくていいんだと思うようになりました。
(次回へ続く)