日本を代表するオンライン金融グループのマネックスグループは、かねてより積極的に中国市場でのビジネスを行っている。中国マーケットが巨大かつ急速な成長を遂げる一方で、日米と比較するといまだ制度が未整備のためにリスクも少なくない。日本企業が中国でビジネスを進めるうえでは、何を重視すべきなのか。マネックスグループ代表執行役社長CEO・松本大氏に、加藤嘉一氏が聞いた。対談後編。(写真/引地信彦)

いまや中国人の採用はバブル状態

加藤 日本ではこれまで、自国を含めた先進国で販売に“成功”した製品を中国に持っていき、現地で試すという心理があったと感じます。これからは、中国の消費者に向けて商品を開発し、中国で成功したものを東南アジア、ラテンアメリカ、アフリカなど他の新興国へ持っていく戦略が重要になってくると思っています。競争の定義にもよりますし、競争の概念も変わっていくと思いますが、対中ビジネスという観点から見て、松本さんにとっての競争相手はどこにいると考えていますか。

松本大(まつもと・おおき)
マネックスグループ株式会社代表執行役社長CEO
1963年埼玉県生まれ。87年東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズを経て、ゴールドマン・サックスに勤務。94年、30歳で同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。99年、マネックス証券株式会社を、04年にはマネックスグループ株式会社を設立。現在、事業持株会社であり、個人向けを中心とするオンライン証券子会社を日本(マネックス証券)・米国(TradeStation証券)・香港(マネックスBOOM証券)に有するグローバルなオンライン金融グループであるマネックスグループ株式会社およびマネックス証券株式会社両社のCEOを務める。

松本 当然、中国企業は圧倒的に力強いですよね。カネもあります。また、情報入手も速く、行動も速い。日本はゼロ・ディフェクトとまでは言わないが、とてもかちっとしているので動きがどうしても遅くなってしまいます。そうしたなかで中国企業は、お金もあるし速い。マーケットもある。北半球と南半球の常識を考えるとまったく違います。中国は南半球的常識、南半球的考え方で行動できるので、脅威ですね。

 そのときに、われわれは米国的な会社であるということが重要になります。実際、人員的には米国人のほうが多く、ブックバリュー的にグループ全体の3分の1くらいあります。いま、中国でいくつかのストラテジーを走らせていますが、ものによっては完全に米国を前に出してやっているんですよ。私(日本)はその後ろ、遠いところにいる親会社の親分という位置づけです。

 グローバル展開するうえでは、日本だけだとやはり限界があります。基本は米国です。また、ビジネスによっては英国はやっぱりすごいと言われるし、ラテンアメリカもそうです。製造業においては、ドイツもそうかもしれません。

加藤 いま、中国人の若いエリートの多くがとにかく金融に行きたいと思っているように感じます。御社も積極的に中国の人材を採用されていますよね。以前松本さんが、中国人が面接に来ると相当アグレッシブで、「もしあなたより私が優秀だったら、私を社長にしてくれますか?」と聞かれたこともあった、とおっしゃっていたのを覚えています。マネックスグループのグローバル戦略の中で、中国人人材をどのように活用したいとお考えですか。

松本 うちには中国人が多いですよ。新卒も中途も外国人は多く、新卒の3分の1、中途の半分ぐらいはそうです。米国人、ウクライナ人、ロシア人など多様ですが、最近の採用はほとんどが中国人です。いま日本のオフィスで一番多い苗字は李さんですから(笑)。

 ただし、中国のマーケットが異常だったこともあり、ピュアな中国の人、要するに中国生まれで中国育ち、中国の学校に通ったような人たちにとっては、バブルに似た部分もあります。つまり、かなりの売り手市場にある。

 日本でもそうでしたが、超売り手市場ではなかなかいい学生を採れないんですよ、ふわふわしているから。ゴールドマンサックス時代にもそういう時期がありました。「どこを志望しているの?」と聞くと「ゴールドマンです」と答えますが、「他はTBSやフジテレビです」と言います。「何を言っているんだ」と思いましたよ(笑)。

 バブルになると、とにかく人気のあるところに行ける、行ければいいと思っているので、彼らは欲しい人材ではないんですよね。そこは面接で気をつけなければいけないと思っています。

加藤 外国人を採用するときには、難しさもありますよね。計算してどうにかなる問題ではないとも思いますが、中国人と一括りにする中にもピュアもいて、米国育ちもいて、中国で高校を卒業してから米国の大学に行ったような中間的な人たちもかなりたくさんいて。多種多様な中国人人材のポテンシャルを最大限に発揮するためには、どう考え、動くべきだとお考えですか。

松本 それは一種のダイバーシティを確保することが大切です。すなわち、中国人以外も採用することが重要になります。たとえば、女性のまったくいない会社が女性を採用したとしても、1人、2人のときはその力を十分に発揮させてあげられない。そこから人数が増えれば、女性という枠の中でも当然能力の違いがあると理解でき、女性の間、男女の間で異なるマネジメントをすることができます。

 多国籍人材に関しても同様です。中国人だけを意図的に採用した場合、その人をベストの状態にしてあげられない。能力を低く見すぎたり、あるいは高く見すぎることもよくないですよね。そのためには、中国の人だけではなく、米国人も、韓国人も、ロシア人もいることが大切です。当たり前ですが、評価するのは国籍ではなく、実力でなければいけませんよ。

加藤 私は、中国人ほど特別扱いされるのを嫌がる民族はないと思っています。いまを生きる中国人は、常に特別扱いされてきました。それもあまり良くない意味で。「社会主義の国で、政府のプロパガンダの中で育った人ですよね」というイメージです。

 だからこそいまの若者たち、とくにエリートたちは、「私たちも皆さんと同じプラットフォームで働き、生きていきたい」という痛切な願望を持っているように思います。彼らは往々にして、これを「尊厳」と表現します。

 ダイバーシティがあり、かつ中国の人もあくまでワン・オブ・ゼムでしかないという空間を可視化してあげること。そんな環境を用意してあげると、中国人は燃えて、自信を持って行動するのかなと、ぼんやりながら思っています。

松本 うちはまさにそんな感じだと思います。中国人とウクライナ人とロシア人が隣の席で働いていますよ。