ライセンス・ビジネスをグローバルに成功させたサンリオ(株)の鳩山玲人氏と、LINE(株)でグローバル・サービスを世に送り出した森川亮氏の対談が実現しました。グローバルに活躍するおふたりは、どんなスタンスで仕事に向き合っているのか?何を考えているのか?それぞれの著作『桁外れの結果を出す人は、人が見ていないところで何をしているのか』(鳩山玲人著、幻冬舎)、『シンプルに考える』(森川亮著、ダイヤモンド社)から引用した言葉をもとに、たっぷりと語り合っていただきました。(構成:田中裕子、写真:村田康明)

「波風が立たない」のは、仕事をしてない証拠

――鳩山さんの『桁外れな結果を出す人は、人が見ていないところで何をしているのか』(以下、『桁外れ』)のなかには、「職場に波風を立てない人は、いる必要がない」と厳しいお言葉がありますが。

鳩山 そうですね。もちろん、何も変化がなくて、摩擦もなくて、万事うまくいっている、というときにわざわざ波風を立てる必要はありません。でも、結局はそんな状態ってほとんどないんですよね。

森川亮(もりかわ・あきら)1967年生まれ。筑波大学卒業後、日本テレビ放送網に入社。コンピュータシステム部門に配属され、多数の新規事業立ち上げに携わる。2000年にソニー入社。ブロードバンド事業を展開するジョイントベンチャーを成功に導く。03年にハンゲーム・ジャパン(株)(現LINE(株))入社。07年に同社の代表取締役社長に就任。15年3月にLINE(株)代表取締役社長を退任し、顧問に就任。同年4月、動画メディアを運営するC CHANNEL (株)を設立、代表取締役に就任。著書に『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)がある。

森川 「万事うまくいっている」。そう思うときは、たいてい退化しているときでしょうね。

鳩山 一見問題がなさそうなときに「このままでいいの?」と振り返ったり立ち止まったり、声に出したり行動に移したり。そうすれば、必ず波風が立つものです。人間関係が壊れることを恐れ、クエスチョンマークを持つことをサボっていると、ものごとは何も変化しません。それより、僕は波風を立ててでも変化を起こすほうが好きだし、そこでの軋轢を恐れない人が好きなんです。

――森川さんも『シンプルに考える』のなかで、「『すごい人』たちは、自分が『違う』と思えば、空気を読まずに突き進む」と書いていらっしゃいますね。

森川 そうですね。会社は社員同士が仲良くするためにあるわけじゃないですから、職場の空気を読むのが仕事の目的になったらダメですよね。ただ、「波風が立つか立たないか」は本質ではないかな、と思います。

――と、言うと?

森川 大切なのは、やるべきことをやること。それだけです。波風を立てることを目的にしていたら、いろいろと問題も起こるでしょうし(笑)。

鳩山 あはは、そうですね。

森川 ですから、波風が立っているかな、どうかな、と意識せずに淡々と「言うべきこと」を言い、「やるべきこと」をやるのが、「すごい人」なんじゃないでしょうか。

鳩山 ああ、なるほどなあ。たしかに、僕の書き方は語弊があるかもしれませんね。僕も、決して「波風を立てよう」としているわけではなくて……。

森川 「立っちゃう」んでしょう(笑)。

鳩山 そうそう、そうなんですよ! どうやったら波風が立たないのかがわからなくて。でも、波風を立てなくともちゃんと仕事をする人もいるじゃないですか。そういう人って、僕が波風を立てても、優しく吸収しちゃうんですよね。

森川 「まあまあ」と言って周りをたしなめてくれる人、いますよね。

鳩山玲人(はとやま・れひと)1974年生まれ。青山学院大学国際政治経済学部を卒業後、三菱商事に入社。エイベックスやローソンなどでメディア・コンテンツビジネスに従事。その後、海外にわたり、2008年にハーバードビジネススクールでMBAを取得。同年、サンリオに入社し、10年に取締役事業戦略統括本部長に就任。経営戦略統括本部長、海外統括事業本部長、全社統括・新体制準備室長などを歴任。2015年7月に設立された新会社「サンリオ メディア&ピクチャーズ・エンターテインメント」のCEOに就任。著書に『桁外れの結果を出す人は、人が見ていないところで何をしているのか』(幻冬舎)がある。

鳩山 そこで僕は「いや、まあまあじゃないから」と言って台無しにしちゃう(笑)。でも、実際、彼が間に立つことでコミュニケーションや雰囲気がソフトになるんですよ。ほんと、尊敬するなあ。

森川 そういう「緩衝材」としてのコミュニケーション能力に長けている人、アメリカにもいますか?

鳩山 いえ、そういうタイプはアメリカにはあまりいませんね。アメリカで仕事をすることが多い僕に、こんなコミュニケーションのできる日が来るのか、非常に不安です(笑)。

 

「不安定さ」のなかで生きていく強さが必要

――『桁外れ』のなかに、「不安定さのなかで生きていく強さを持たなくてはならない」と鳩山さんは書かれています。どういうことでしょうか?

鳩山 僕は、世の中の大原則として、「安定は存在しない」と思っています。だって、実際そうですから。誰がリーマンショックを予想できましたか?誰が正確に地震発生を予測できますか?株式市場、ギリシャ、中国、火山、地震……。世の中を見回しても、自分にはコントロールできないことばかりでしょう。つまり、そもそもこの世は、変化しないで安心していられるような場所ではない、ということです。だからこそ、不安定さに慣れることが大切だと思うんです。

森川 不安定さに、慣れる?

鳩山 四六時中小舟に揺られて生活していたら、いつか「揺れている」と意識しなくなるでしょう。そういうイメージです。ベンチャー企業の経営者は、それと似ているんじゃないかと思うのですが。

森川 たしかに。「安定していない」と意識もしなくなる感じですね。

鳩山 そうです、そうです。不安定な状態を受け入れて、それが自分の平常の状態だと思えることが大切で。僕自身、学生時代から「安定なんてないんだ」と自分に言い聞かせてきたし、いかにそのなかで仕事や人生に落ち着いて向き合えるかばかり考えて生きてきました。

森川 大企業の中長期計画は、つかの間の安定を求めるものかもしれませんね。とりあえず安心したいから、計画を立ててみる。

鳩山 うーん、どうでしょう……。でも、たしかに、みんな、漠然とした不安にとりつかれて、漠然とした安心を求めますからね。

――『シンプルに考える』で森川さんは、「未来が不確実だからこそ、可能性は無限大にある。これを信じることができるかどうか。それが、成功できるかどうかを分けるのだ」とお書きになりましたね。

森川 ええ。インターネット業界は非常に変化の激しい世界です。3ヵ月先のこともわからない。だから、未来は限りなく不確実で、常に不安。その不安を楽しめる人でなければ成功できないんです。実際、LINEを生み出したメンバーは、そんなポジティブな人たちばかりでした。

鳩山 ポジティブでなきゃ、新しいものは生み出せませんよね。

森川 ええ。それで、LINE(株)にいたときに、ひとつ感じたことがあるんです。LINE(株)にはアジアの人から欧米人までいろんな国の人がいました。彼らと比較すると、日本人には変化を嫌う傾向の強い人が多いんですよ。

鳩山 なるほど。

森川 もしかすると、日本が国境を海で囲まれているために、日本人は変化がないことを「当たり前だ」と思いがちなのかもしれませんね。一方、アジアやヨーロッパはどうか? 歴史的にも侵略や戦争など常に変化にさらされてきたからでしょうか、安定するとかえって不安がる人も多いんです。「そろそろなにか起こるんじゃないか」って。いわば、安定に慣れていない。

鳩山 へえ、まったく逆ですね。おもしろい。

森川 はい。でも、今のように変化の激しい時代には、安定に慣れていない人たち、つまり、不安定に慣れている人のほうが強いんじゃないでしょうか?

鳩山 そうですよね。いわば、「昨日の答え」が「今日の答え」じゃない時代。もっと言えば、誰も「明日の正解」を知らない時代ですもんね。

森川 そういう時代に「答えがある」と思って生きているのは、逆にツライんです。僕はソニーで、コンテンツとモバイルをネットで結びつけるという、当時は、何が正解かもわからない新規事業部門に配属されました。進むべき方向もやるべきこともすべてが曖昧な世界だったんですが、その状態を楽しみながら「答え」を探していかなければならなかった。そういう環境で仕事をするとき、マークシート的に「答えは1つ」と思っていると苦しいんですよ。

鳩山 上司も誰も、羅針盤を持っていないわけですもんね。

森川 でも、これは新規部署だけの話ではありません。もはや、どの企業も「答え」を手探りで見つけていく時代に突入していると言えるでしょう。

日本の教育は、主張「しないこと」を教えている

鳩山 そう。当たり前のことなんですが、「答え」は“ある”ものじゃなくて、自分で見つけるものなんですよね。これ、教育の問題だと思うんですよ。僕、日本の国語のテストがすごく苦手だったんです。バッテンをつけられると、いつも、「いや、答えはBじゃない、Cだ」と先生と争っていました(笑)。でも、日本みたいに「答えを選択させる」式の国語を教える国は、じつはそんなにないんです。

森川 そうですね。

鳩山 日本の国語は「人が言ったことをどう解釈するか」、つまり空気やコンテキストを読むことを小学校の低学年から教え込まれるでしょう。人の作品を読んで、「この人はこう考えました」と教えるのが日本。「知るか! オレはこう思うんだ!」と主張するのがアメリカですから(笑)。

森川 あはは、そうですね。

鳩山 日本の教育は、主張「する」ことを教えていないのではない。主張「しないこと」を教えているんですよ。

森川 ああ、おっしゃるとおりですね。

鳩山 そして、空気を読むことを教えるとなると、必然的に人々がもつ「考え」はある程度一緒になっていく。

森川 それじゃあ、新しい「答え」を見つけ出して、まったく新しいモノを生み出すような人材はなかなか生まれませんよね。新しいものをつくるのと、今あるものを磨き上げるのでは、求められる能力がまったく違います。いままでは過去の成功を磨くだけで、そこそこ成長することができたけれど、これからはゼロベースでイノベーションを起こさないと、世界で生き残っていけません。

鳩山 そうですよね。

森川 今の日本は、「新しいものをつくる経験」をしている人が少ないのが課題でしょう。そういう教育も受けていないし、このままのやり方ではダメだと気づいていても、「とりあえず、今はいいや」と先送りしてしまう人ばかり。冷静に考えれば、結構、国として危機的な状況ですよね?

鳩山 財政はじめ、どうにかしなければならないことはたくさんありますね。

森川 まさに、「誰かやらないと」という状態です。ベンチャーでもいい、大企業の新規事業でもいい、いままでの価値を壊すくらいのものをつくらないと。そうなると、どうやって「新しい答えを見つけられる人」「新しいモノをつくれる人」を育てるか、という問題が浮かび上がってきます。

鳩山 ええ。

森川 イスラエルと日本の母親では、学校から帰ってきた子どもにかける質問が違う、という逸話があります。日本の母親は「今日は先生の質問にいくつ答えたの?」と質問する。一方、イスラエルの母親は「今日は先生にいくつ質問したの?」と質問する。ここに、日本の教育の課題が凝縮されているような気がしますね。

鳩山 ただ、まずは教育を変える……といっても、すぐに結果が出るものではありません。やっぱり僕たち自身が、「答え」のない問いに一生懸命ぶつかっていくしかないですね。

森川 一緒にがんばっていきましょう!

<完>