少数民族問題を無視することはできない

北岡 国民が豊かになり賢くなることで、いまのフィクションがいつまでも持つのかなとは心から思うことです。その陰ではいろいろな改革もやりますが、たとえば、新疆ウィグルとかチベットなどの少数民族の問題、これは避けられない問題ですよね。

加藤 私から見ても、新疆ウイグル自治区の問題は、昨今の統治にとっての最大のリスクの一つです。同自治区関係者の話を聞いていると、報道されている何倍もの暴動が起きていたり、それを撮影した中国中央電子台(CCTV)の記者が左遷されたりしているようです。共産党は同問題をとても厄介なリスクだと認識していると思いますよ。

「東京大学は少なからず、北京政府や中華人民共和国と争っていたんですよ。私がけしからんと思うのは、普段は人権に熱心だと言っている国が、そういうところには目をつぶってることです」

北岡 私は、モンゴル・内モンゴルから来た学生を教えたことあるんですよ。東大のウィグル人留学生が捕まり、懲役10年を食らった事件もありましたよね。そういう人は、一定の年限が来ると大学を除籍になるので、評議会を開いて、特別にこの人の在学期間を延長すると決議していました。

 東京大学は少なからず、北京政府や中華人民共和国と争っていたんですよ。私がけしからんと思うのは、普段は人権に熱心だと言っている国が、そういうところには目をつぶってることです。

加藤 おっしゃるとおりです。香港の普通選挙法案改革の問題にせよ、米国も英国も、そして日本も、中国にノーを言わない。中国にノーと言えない国際社会、健全な外圧をかけられない状況はよくありません。中国自身もそれによって損をします。結果的に国家資本主義や開発独裁体制が膨張していくかのような現状に対し、我々は強い懸念を持つべきだと思います。

北岡 平穏な生活を送っているときに、突然夜コンコンとノックして連れていかれて、裁判官もなしに裁かれる。これが一番怖いことなんですよね。欧州で中国問題やアジア情勢を議論するときにはよくこんな話をします。「あなたたちは何十年か前にそういうこと経験したはずだ。そうした経験があり、人道や人権と言っている国の人たちが、金儲けさえできればいいんですか」と。それは非常に遺憾に思います。

 最近の大きなターニングポイントは、チベット事件のときにフランスのサルコジ大統領がオリンピックの開会式を欠席する可能性を示唆したら、カルフールを締め上げられ、たちまち沈黙してしまったケースです。あの辺りから西洋諸国は中国に対してものを言えなくなってしまいました。

 台湾問題もそうですね。台湾にすぐには手を出せないと思いますが、そこにいるのは圧倒的に漢民族なわけです。内モンゴルでも、モンゴル族がマイノリティです。世界のモンゴル民族は、主に内モンゴル地区にいます。ただし、彼らは何百万単位で、漢民族は何千万。もし選挙をやれば完全に負けてしまう。民主とは数の力であるというのも1つの定義ですが、そこにある自由を考えると、それだけでは非常に難しいとこに来ていると思います。

 私は、中央のテロリズムを根絶することは難しいと思っています。チェチェンや新疆ウィグルについて見ても、根源的な対策なんかできませんよ、きっと。命懸けでやってる人に対して、なかなか手は打てません。弾圧を強めるだけで処理できるとは思わない。

加藤 漢族、そして共産党による支配がますます強化されるなか、漢族の人たちはおそらく現体制に対して「ノー」とは言わないでしょう。企業家であれ知識人であれ、社会や市場、そして世論に対して一定程度の影響力を持ってきたら、共産党は必ずそういうプレイヤーを取り込みにかかります。全人代の代表や政協委員という政治的な優遇ポストを与えて、ますます何も言えなくなる状況をつくる。現段階で共産党体制に対してノーを叩きつけているのは、一部の少数民族と一部のリベラル派知識人という状況です。