フジテレビのフリーソフト配布サイト「FUJITV GADGET GALLERY」。ここはテレビ局とインターネットの新しい関係性を模索する場とも言える。

 「MANGA GRILL」というフリーソフトがある。これは、用意された顔や目、鼻、口といったパーツを組み合わせてキャラクターを作成し、画面上に配置していくことで、簡単にマンガを作成できるという、一風変わったソフトだ。

 このソフトの開発・公開を行っているは、IT企業ではない。なんとテレビ局のフジテレビなのだ。

 フジテレビは、「FUJITV GADGET GALLERY」というAdobe AirをプラットフォームとしたAirアプリを公開するページを運営している。ここでは、先述のMANGA GRILLのほかにも、ししおどしや金魚すくい、ジグソーパズルといったフリーソフトを公開している。

 なぜ、テレビ局がパソコンのフリーソフトを、しかもテレビとはあまり関係のないジャンルのものを扱っているのだろうか?

 実はフジテレビは、「フジテレビ★プラネッツ」という無料のゲームコーナーや、「キミフジ」というソーシャルゲームサービスを提供するなど、インターネット向けのコンテンツやサービスの開発を以前から手がけているのだ。こうした動きは、なにもフジテレビだけではなく、最近のテレビ各局が取り組んでいること。テレビ放送だけでなく、インターネットを利用したビジネス開拓が目的だ。

 FUJITV GADGET GALLERYでは、手軽に使えるミニアプリを中心に公開。これにより、フジテレビに親近感を持ってもらおうという狙いがある。通常ならば、番組連動のソフトで視聴率アップを目指すのだろうが、あえて番組とは関係のないソフトを開発して新しい可能性を模索している段階だ。

 つまり、FUJITV GADGET GALLERYは、採算などをあまり考えていない「実験的な取り組み」と言える。

 だからといって、各ソフトがつまらないかというとそうではない。実際かなり面白く、ついつい夢中で遊んでしまうようなものばかり。フジテレビによると、「ユーザーに喜んでもらうことを第一に考えて開発を行なっている」という。

 また、Adobe Airをプラットフォームに選んだのは、「仮にサービスが終了してもスタンドアロンで起動して、ずっと使ってもらえるようにするため」ということだ。

作成したマンガは
自由に公開できる

 最初は「何故フジテレビが?」と思っていたが、話を聞くと意外と真剣にウェブコンテンツの1つとしてソフト開発を行なっていることがわかった。特にMANGA GRILLなどは、これまでにない新しいタイプのソフトだ。作成したマンガは、一部のキャラクターを除いて自由に公開できるのだから、絵が苦手な人でも気軽にマンガを作成して発表することが可能となる。

 いわゆる「ライツビジネスにはうるさい」というイメージがテレビ局にはあるが、MANGA GRILLではかなり自由になっている言えるだろう。このあたりも、新しいビジネスの模索ゆえなのだろうか?

 また、FUJITV GADGET GALLERYに関しては、大々的に宣伝などは行なっておらず、Twitterやブログによるクチコミから、Vectorや窓の杜といったオンラインソフトサイトが取り上げていったという経緯もあり、テレビ的ではなくインターネット的な広報・マーケティングの実験として捉えているという。

 筆者はMANGA GRILLのことは、窓の杜の記事で知った。つまり、フジテレビのソフトとは思わずに注目したのだ。これは、フジテレビ的には「思うツボ」というところか。新しいマーケティングの実験としては、まずまず成功といえるだろう。

 もはやテレビ局は、テレビ放送だけをやっていればいい時代ではない。インターネットというメディアをいかに活用するか。彼らは次のステージへ進まなければならないようだ。

(三浦一紀)