9月、それも末日に近づくにつれ、銀行から案内されることが多くなる金融サービスがあります。それは「社債」。銀行出身で、これまで財務が傷んだ中小企業を数多く再生に導いた村上浩氏によると、社債は「百害あって一利なし」。その理由を聞きました。
3月9月の決算期末は
銀行の営業が熾烈になる
たいていの金融機関は、3月と9月に決算期末を迎えます。本店から各支店に割り当てられた目標数値の締め切りでもある、最も多忙な時期です。人事考課に大きな影響を及ぼしますので、支店幹部は目標を達成するために最大限の努力をいといません。場合によっては支店長自ら無理強いに近い営業に乗り出すこともあります。
筆者が籍を置いていた銀行では、2期続けて支店目標を達成できないと、支店長は左遷させられるとの噂がありました。本当のところは平社員の知るところではありませんが、おおよそ業績動向と支店長人事は連動していたようなので、「当たらずとも遠からず」なのだと思います。
目標数値は、預金残高や貸出金残高など、複数設定されています。なかでもいちばん重きを置かれるのが「業務純益」。一般事業法人では営業利益に相当するものです。
この数値を増やすには、伝統的な銀行業務である融資を伸ばそうと考えるのがかつての王道でした。しかしバブルが崩壊してからというもの、ごくごく最近まで中小企業向け貸出は減少トレンドが続き、思うように融資が伸びません。今でも、資金を調達して前向きな設備投資に乗り出すことに慎重な企業は多いです。
金融機関が貸しても大丈夫だと思う優良企業にはそもそも資金需要がなく、あっても自己資金でまかなってしまう。一方、資金を調達しないと生きていけない(危ない)企業に対しては「傘を貸さない(貸せない)」。本店の企画担当者が考えるほど、現実は甘くないようです。
そんななか、一気に業務純益を上げる手があります。社債です。決算期を前に社債引き受けが決まれば、多額の手数料が一気に手に入ります。発行額が5億円、表面金利が1.00%、引受手数料0.80%の私募債を引き受けると、当期中に400万円もの手数料を手にできます。
一般融資5億円ではこうはいきません。仮に決算月の月初日に融資を実行しても、1.80%の金利収入では当期中の貢献額は75万円余にしかなりません。業務純益の積み重ねにあらん限りの力を出しているなかで、この差は非常に大きいのです。
社債を勧めるのは銀行の都合!
後日のリスクに付き合うな
しかし、この社債は、中小企業にとってはただのクセモノでしかありません。決算期末が近づくと大手金融機関が営業をかけてくる私募債発行にはぜひ気をつけてください。
一般貸出と違って償還を待ってくれないので、リスケができません。もし償還ができない場合、格付けは確実に下がります。暫定措置として短期貸出扱いで償還金の相当額を融資してはくれるものの、驚くほど高い金利が設定されます。
リスケした借入金の金利は平均2.00%程度なのに、社債償還金の融資には6.00%近い金利を取られてしまうケースもあります。何度も利下げ交渉をしても「こればかりはデフォルト(債務不履行)扱いなので……」と思うようにいきません。
私募債発行を中小企業に勧めるのは金融機関の都合です。「第1回無担保社債発行記念」なんて記念盾を贈られ、社長さんのプライドをくすぐりにかかってきますが、経済効果は一般融資と一緒。わざわざ金融機関に付き合って後日のリスクを背負うことはありません。決算期末月は特に要注意、油断しないでください。
(『社長! 御社は銀行からまだまだおカネを借りられますよ!』より)