モノの値段は原価ではなく、価値で決まる

石原 本の中で実例として紹介した女性向けアパレルブランドは、8割以上がオーダー品で顧客満足度も非常に高い会社でした。そこで、まず一律20%値上げし、単価の高いオーダー品はさらに数万円の値上げを実施しました。

 その結果、年間6000着の商品が平均1.2万円高く売れて、トータル7200万円のキャッシュが値上げしたことだけで生まれたのです。お客さまに信用されている、喜ばれている商品の場合は、2~3割値上げしても売れるので、値上げだけで経営はすぐに改善します。

髙井 取り扱う商品やサービスが本当に素晴らしければ、お客さまはそれだけの価値を感じてお金を出しますからね。

石原 極端に言うと、10円で仕入れたものを1000万円で売っても買う人がいれば何の問題もありません。同じ商品をAさん、Bさん、Cさんが感じる価値で、それぞれ違う値段で売っていいんです。

 日本は製造業の国ですから原価で値段を考える傾向にありますが、モノの値段は原価ではなくて、お客さまがどれだけ価値を感じるかで決まるのです。

 例えば、今うちの会社では経営者を対象に英会話を教えていますが、価格は半年契約で360万円です。年間契約なら300万円ですから、3人で1000万円、30人なら売上1億円になります。

 仮に1億円儲けたいと考えた場合に、どのマーケットを狙うのかということもポイントになってきます。今の英会話を例にあげると、素晴らしいノウハウがあるのだから、それを広く安く提供したいと思うかもしれません。しかし、大勢の生徒に教えるにはどれほどのスタッフや施設が必要になるでしょうか。それを考えるとマーケットを少数の富裕層に絞り込み、高い値段で提供するほうが少ない人件費で大きな利益を得ることができますよね。

石原明(いしはら・あきら)
日本経営教育研究所代表
僖績経営理舎株式会社代表取締役
ヤマハ発動機株式会社を経て、外資系教育会社代理店に入社。約6万人のセールスパーソンの中で、トップクラスの実績を収める。「セールス・マネージャー世界大賞」を受賞後、日本経営教育研究所を設立し、経営コンサルタントとして独立。中小企業から大企業まで、業種や企業の規模を問わず幅広いコンサルティング活動を行っている。毎年の講演回数は100回以上。ビジネスの発想力やマーケティング力を開発・育成する「高収益トップ3%倶楽部」には、全国延べ4500社が参加。2万人の読者を抱えるメールマガジン『社長、「小さい会社」のままじゃダメなんです! 』や、独自の視点で経営を綴るブログ『石原明の経営のヒント』も執筆中。毎週金曜日に配信する人気Podcast番組『石原明の経営のヒント+(プラス)』は累計ダウンロード数2200万回を超えている。著書に、『営業マンは断ることを覚えなさい』(三笠書房)、『「成功曲線」を描こう。』(大和書房)、『トップ3%の会社だけが知っている儲かる仕組み』(KADOKAWA)などがある。

髙井 これは本に書かなかったのですが、以前担当した美容室は、静岡でナンバー1のお店でしたが、東京に店舗を出したところ思うように利益が上がらなかったんです。そこで私は東京店をひとまずそのままに、最初は経営が順調な静岡の店舗で値段を上げました。石原さんの実例と同じで、顧客満足の高い店は利益が上げられるとわかっていましたので。その時は、値上げに加えて回転数なども改善させました。美容室の場合、予約を1週間縮めるだけでも利益は大きく違ってきます。客数がそのままでも回転数を増やせば売上も伸びるわけです。

 みなさんは東京店から経営を立て直すべきだと思うかもしれません。たいていは気になるほうから手をつけますよね。社員の教育にしても、できない人から何とかしようとします。でも、人間が集団で行動すれば自然と上位20%、中間60%、下位20%の構成になるという「2・6・2の法則」に基づいて考えれば、できない人よりできる人を先に伸ばしていくほうがずっと効果があるのです。

石原 聞けば当たり前のことなんですが、経営者でもこういうことに気づかない人はたくさんいます。それを自然に思いつくのが髙井さんの才能ですよね。子どもの頃からビジネスセンスを持っていて、人の心理や感情の動きが分かるので、そこを上手にコントロールできる人なんですよね。

髙井 石原さんもそうだと思いますが、よく会計士の人がお店に入ると、職業目線で売上や費用などを計算してしまうと言いますが、そういうことは常に考えます。それから私の場合は片っ端からお金使って、いろいろな会社の顧客になります。どんなことを言われるだろうとか、こういう対応もするのかとか、いろいろ知るのがとても楽しいんです(笑)。