米IBM元会長ルイス・ガースナー氏の言葉を借りるなら、ビジネススクールの本来の目的は「状況がはっきりしないまま、限られた時間の中で、事態を分析し、判断を下す」能力を養うことである。
その意味で、ケーススタディの授業で不完全な情報しか与えられなかったのは、当然と言えば当然のことだった。そもそも、あなたが何か新しいビジネスを始めようとしているのであれば、まったく同じような状況に直面することになるはずだ。
だからこのときの僕に必要だったのは、まず自分の頭で考えて、自分自身の結論仮説を絞り込むことだった。
ケーススタディというのは、まさにそのための訓練なのである。
優秀な人がハマる「高級ルーティンワーク」の呪縛とは?
こういった話をしても、「とりあえず情報収集」に慣れ親しんでいる人は、まだ納得していないかもしれない。
実際、僕たちの多くはほとんど「考える」ことをしないまま仕事をしている。他人がつくった論理に沿って物事を見て、そこに当てはめる情報を集めていれば、僕たちの仕事の9割がなんとかなってきたのだ。
あらかじめ考えることをしなくても、とりあえず漠然とでもどんな情報を集めればいいかがわかれば十分な仕事のことを、僕は「高級ルーティンワーク」と呼んでいる。
つまり、学校のテストと違って決まった正解があるわけではないので、ちょっとした工夫が求められるという意味では「高級」ではあるが、やっていることは空欄を埋めるための答え探し(情報収集)の域を出ない「ルーティンワーク」なのだ。
日本企業のほとんどの仕事は、この高級ルーティンワークだった。
従来であれば、複雑な高級ルーティンワークを大量にこなせる勤勉な人が「優秀な人」だとされてきた。要するに、他人が考えた論理を頭に入れる能力、そしてそこに情報を当てはめる能力さえあれば、その人は「頭がいい人」だと言われたのである。
しかし、そうした時代は終わりつつある。自ら論理(結論仮説)をつくれる人、それに応じた情報収集ができる人が求められるようになってきているのだ。