偶然与えられた才能で成功する、
日本のアニメの主人公たち

岩崎夏海(いわさき・なつみ)
1968年生まれ。東京都日野市出身。東京藝術大学建築科卒。大学卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として多くのテレビ番組の制作に参加。その後、アイドルグループAKB48のプロデュースなどにも携わる。著書に『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』など多数。

岩崎『もしイノ』に書いたのも、まさに同様のことです。野球部に関わる人が増えるということは、グラウンド整備でも用具整理でも、自分事として捉えられるということ。試合に勝てばすごくうれしいし、負ければすごく悔しい。そういう人を増やさないというのは、もったいないと思うんです。関係者が多ければ多いほど、喜びの輪は広がっていきますから。

夏野 また、ドラッカーがいった「ベンチャーが成功するための四つの法則」の「キャッシュフローと資金について計画を持つこと」について、マネージャーたちが「お金」を「人材」に置き換えて考えるのが、おもしろいですよね。高校野球は資金より、人がいないと成り立たない。だから、人材フローをまわすことが先決であると。

岩崎 しかも、高校野球だと1年ごとに必ず人材が入れ替わってしまうので、人材の確保はもっとも難しく重要な問題なんです。

夏野 高校野球を舞台にした意味が、ここにもありますよね。しかも、集めた人材に「型」を覚えさせて、一様に強くする。これはもう、勝つための戦略として完全に正しい。日本の組織はよく「がんばったかどうか」というプロセスを重視して、勝負には負けてしまうんですよね。プロスポーツの世界でもドラッカーが言うように、いろいろなところでイノベーションを起こして、チーム全体の力をあげようと言う発想があまりないと感じます。

岩崎 よくあるのが、野球をやっている人しか、野球を語ってはいけないという風潮です。苦労した当事者だけがそれについて意見を言うべきで、外部の客観的な意見は取り入れない空気があります。

夏野 ありますよね。だからこそ、根性論に寄りがちになる。スポーツじゃないんですけど、日本のアニメーション作品って、目的が明確じゃない主人公が多いんですよね。例えば『ガンダム』では、敵方のジオンはすごく戦略的なんです。何が効果的なのか計算して、戦争を仕掛けたり、コロニーを落としたりする。でも、主人公側の連邦軍っていつもそれに対してあたふたして応戦してるだけ。『アンパンマン』もそうなんですよ。

岩崎 たしかに。バイキンマンって、「こういうことがしたい」という目的に基づいて作戦を立てていますけど、アンパンマンは受け身ですね。そして、抜本的に問題を解決するという発想はない。

夏野 おまけに、主人公は天然で強いという人が多い。『新世紀エヴァンゲリオン』のシンジ君だって、なんか知らないけど最初からエヴァンゲリオンを動かせちゃう。アメリカのヒーローって、『スター・ウォーズ』もそうですけど、訓練しないとジェダイマスターになれないんですよね。天性プラス後天的なものの組み合わせ。日本は「たまたま才能がある」という場合が多い。こういうメンタリティが、経営者にもある気がするんですよ。

岩崎 たまたまうまくいった、と思っている?

夏野 それを自覚しているならいいんですけど、もともと才能があるからうまくいった、と思っている人が多い。本人が優秀じゃなくても、上場のタイミングがよくてお金が入ってくれば、経営はなんとかなるんですよね。それなのに、それを自分の能力だと勘違いしてしまう。もっと謙虚かつストラテジックに、何がゴールで、何のためにこの組織を運営しているのか、考えたほうがいいと思います。それには、『もしイノ』の野球部のやったことは、すごく参考になりますよ。

(後編は1月13日公開予定です)