『週刊ダイヤモンド』2月27日号の第1特集は「円高襲来!為替と通貨の新常識」です。誤解を恐れずに言えば、外国為替市場に確立された理論はありません。為替を動かす基準は時間軸で変わってくるし、投資家の心理にも大きく左右されます。そんな解読困難な為替市場で今、異変が起きています。ドル円相場が年明け以降、1ドル=121円から110円まで、まさに大波のうねりのように、歴史的な円高劇を演じたのです。このまま円安から円高へのパラダイムシフトは起こるのでしょうか。為替と通貨の新常識を読み解きました。

「欧州発の金融不安がきっかけ」「米国での景気後退リスク」「やっぱり中国の景気減速」「中央銀行への不信感から」「根源的には米国の利上げ」――。

 2月に入ってからの劇的な円高はどうして起こったのか。この問いに対する答えは、上記の通り、専門家でもさまざまだ。ところが、こうしたリスクイベントの結果として発生する「円高メカニズム」については、面白いことに完全に一致する。

 具体的には、投資家心理が悪化し、株や新興国通貨などのリスク資産から安全資産に資金を移動する「リスクオフ」が加速して、相対的に安全資産とされる円が買われるという流れだ。

 では、「リスクオフで相対的に安全資産とされる円が買われた」という、相場記事でよく見掛けるこのメカニズムは、本当に正しいのだろうか。

 例えば、「安全資産とされる円」。日本は周辺で、北朝鮮が核実験を強行したり、長距離弾道ミサイルを発射したりと、きな臭い地政学リスクが高まっている上、財政的にも巨額の借金を抱え、国債暴落説が今なおくすぶっている。

 これで安全資産なの?と言いたくなる。

 これに対して、専門家がよく言う「日本は世界最大の対外純債権国(民間も含めた対外資産が対外債務を上回っている国)だから安全」という理屈。もちろん中長期の視点ならば理解できるのだが、投資家がそれを意識して円買いを仕掛けているとも思えない。

知られざる「“条件反射”的な思惑買い」の威力

 悶々とした疑念が消えない折、本音を語ってくれたのが、SMBC信託銀行のシニアFXマーケットアナリストの尾河眞樹氏。「財政も厳しく、実際に安全資産と思って円を買っている人はいない」。

 それなのに、どうしてリスクオフで円買いが進むのだろうか。その謎を探っていくと、超低金利時代が長く続いた日本の特殊事情が深く関係していた。