再定義の力――大ヒット商品「ポストイット」は
接着力の弱さに着目した

 孔明は劉備が天下を獲るために、各国の情勢を再定義してみせたのです。弱小の劉備の前で、二強が激突して魏が勝てば劉備はさらに追い込まれます。しかし苦境の呉と協力して一強の曹操を打倒すれば、恩を売って拠点まで手に入れるチャンスに変わります。

 本来はデメリットだったものを、再定義することで千載一遇の機会に変えてしまうことは、ビジネスの世界でも頻繁に起こり、再定義の機転は大きな利益につながります。

■再定義によりヒットしたもの
・失敗作の接着力の「弱さ」を活用した製品のポストイット
・「在庫の少なさ」を逆にメリットと考えたトヨタ生産方式
・「古民家」を京都風にリフォームした滞在型人気ホテル
・携帯が通じない田舎で「喧噪のない静かさ」をウリにする民宿

 劉備の軍団は各地で傭兵をしながらも拠点を持ちませんでしたが、拠点がないことはどの地域でも新たに選ぶことができ、移動できる利点があることも意味します。孔明が劉備に示したのは、強力な支配者がおらず、しかも豊かな巴蜀の地域でした。さらに、傭兵軍団のトップの戦略を、帝王となる戦略に変えたことも孔明の功績です。

 各地で特定の勢力に劉備は加担して戦いましたが、その地の盟主からすれば、戦闘に劉備を利用することだけが目的で、劉備軍団を膨張させる動機も理由もありません。ところが曹操の南下で、呉が国家存亡の危機に直面した上で、その後に曹操への防波堤として劉備が利用できるなら、呉には劉備を後押しする構造的な動機が生まれます。

「『荊州を劉備に貸し与えられて、彼にその地の人々を手なずけさせられるのがよろしゅうございます。曹操の敵を多くし、味方の勢力を強力にするのが、最上の計略でございます』。孫権は、即座にこの意見に従った」(『正史三国志〈7〉』呉書2 魯粛伝より)

 ビジネスでも小さな必要性に応えるだけなら「単なる便利屋」で終わります。帝国をつくるには、劉備の勢力が大きくなったように、社会的な追い風を受けなければなりません。呉の謀臣の魯粛は、劉備に荊州を貸し与えて曹操に対抗させ、曹操を退ける策を孫権に提案して許可を受けますが、劉備が本格的に台頭するきっかけとなりました。これは孔明が、傭兵軍団の戦略を、皇帝にのし上がる戦略に切り替えた効果なのです。

(第6回は4/4公開予定です)