机上で議論を続けず、プロトタイプ運用から
「動的」に始めるリーン戦略

 現在、月間アクティブユーザーが12億人を超えるソーシャル・ネットワークのフェイスブックは、もともとは2004年に創業者のマーク・ザッカーバーグが数週間で立ち上げたサービスでした。コンパクトに試作品を立ち上げて運用を開始して、ユーザーの反応を確かめながら改良を加える事業開始方法をリーン・スタートアップと呼びます。

 会議室の中で延々と議論するよりも、現実にユーザーに使ってもらうところからスタートして、机上の空論を続けるのではなく、動的な状態から好機を見出す発想です。この方式でスタートするベンチャー企業の中には、手軽な試作アプリケーションを次々に立ち上げ、実際に機能した場合にはじめて会社を設立するケースも多くあります。

 ナポレオン出現以前は、欧州での戦争は貴族同士の争いでした。彼らは自軍の兵士を消耗させないため、対峙したときの陣形で勝敗を判定したことさえあったのです。ところがナポレオンは、対峙したときの静的な陣形ではなく戦闘が開始されて両軍が入り乱れる状態に好機を見出していました。この変革により、ナポレオン以前の貴族将軍たちは、彼の戦い方に巻き込まれて大混乱を迎えます。

 リーン・スタートアップの概念自体は、2008年にアメリカの起業家エリック・リースが提唱していますが、ビジネスの開発・マネジメント手法として多くの新規プロジェクトの立ち上げに参考となるものです。

 何も実際に動かず、仮説のプランニングと検討に時間を長く費やす旧発想の企業は、リーン・スタートアップの企業が小さく動いてユーザーの反応を確かめる段階でもまだ腕組みしています。様子を見てばかりなので、先に始めた側が大成功を収めるのです。

 2010年にスタンフォードの大学生二人が立ち上げた写真加工・共有サービスのインスタグラムは、数年後には時価総額で400億円を超える巨大なネットワークとなりました。彼らは5年も10年も計画に時間を費やさず、ふとした思いつきでプロトタイプを立ち上げてユーザーを獲得し、その反響を事業拡大の推進力にしたのです。「静的」な議論やプランニングを好むビジネスマンは、「動的」な状態から始まることが得意な側に常にスピードで圧倒的な差をつけられます。

 全軍の機動力を高め、戦場での陣形変化に迅速な判断を次々下すナポレオンは、欧州で周辺国の大軍を何度も打ち負かしました。「考えるばかりで始めない」姿勢は、試験運用をすぐ開始して試行錯誤から始める側からすれば、好機をつかめない“のろまな亀”となってしまうのです。

(第12回に続く 4/18公開予定です)