山に立てこもって、ゲリラ戦をやる心がまえはあるかね
9月に朝鮮戦争の調査をした中国共産党の林彪は「あの人たち(朝鮮労働党)は山にたてこもってゲリラ戦をやる心がまえはあるかね」と聞いています(前出書より)。
険しい山岳地帯は近代装備の米・国連の大軍が苦手として、あえて進軍したがらない地域です。見通しが利かず、大軍の優位性が消え、敵が地理に精通しているからです。
これは先に紹介した『競争しない競争戦略』のニッチ戦略の定義に似ています。ニッチ戦略は相手と戦わない(相手が攻めてこない)戦場を選ぶことであり、差別化戦略は、相手と違う形で競うことを意味していました。
大手が求める合理化とは逆に、独自の高品質で参入しにくくすること。市場規模を一定に留めることで、大量販売が必要な大手に魅力のない市場にすることなどです。ニッチに根拠地を置き続けて大手企業の脅威を避けながら、ここぞという一点で集中できる勝機を見つけて大手の売上を局所的に奪う戦闘を仕掛ける。まさにゲリラです。
また、ゲリラ戦で生き延びた企業がよく犯す間違いも朝鮮戦争で指摘されています。
「われわれの同志の中に外国の正規戦術に束縛され、大通りを正々堂々としか進軍できない者がいる(中略)。制空権のないまま、われわれの夜戦に強い長所を発揮できず、砲兵も上手に使用できない」(前出書より)
ゲリラであるにもかかわらず、大手の得意とする白昼の大通りで戦闘を行おうとする。生き延びてきた理由を忘れて、大手に相応しい戦略・戦術、大手に意味がある効率化を追求すれば、ゲリラには命とりになることさえあります。
ゲリラ部隊にとっての効率化とは、例えば次のようなことです。
・販売量を限定できる製品をもう一つ出す
・「ひと手間かけて魅力を引き出す」を継続できる体制づくり
・いたずらに新規市場に飛び込まない(むしろ残存者利益を狙う)
個性的な美味しさで繁盛していたレストランが、人気に応えるため床面積を広くしたり、建物を新しく大改装したとたん味が急に落ちて、廃業に追い込まれることがあります。店舗が古いままで固定費が安く、損益分岐点が低いことで味と素材にこだわることができていたのに、自らのゲリラの強みを捨て間違った効率化で敗れたのです。
中国共産党の指揮する義勇軍は、30万の軍勢でも、ゲリラの自覚を崩しませんでした。米・国連軍の強力な火力、大軍という敵の優位から目をそらさなかったのです。
一時劣勢に立たされて、米トルーマン大統領は核兵器使用の可能性を示唆。マッカーサー元帥は中国領土の爆撃など戦線拡大を主張しますが、1951年4月に解任されます。
南北合わせて約200万人の犠牲を出したと言われる朝鮮戦争は、1953年に休戦協定が結ばれて、ようやく停戦を迎えました。
(最終回に続く 4/28公開予定です)